コラム

データマイニングは犯罪対策をどう変えたのか? 日本が十分に駆使しきれていない「意外な理由」

2025年06月09日(月)11時00分

もっとも、それがそのまま犯罪対策になるわけではない。データマイニングは法則(関連)を見つけても、そのメカニズム(背景)までは教えてくれないからだ。見つかった法則のうち、どの法則を優先的に採用するかを決めるのは人間の仕事である。

これについて、イェール大学のイアン・エアーズは、「直感と定量分析とを行き来することで、単なる直感主義者や単なる数字屋がこれまでやったよりずっと先を見通せる」と述べている。コンピュータが自動推論(機械学習)するようになっても、経験や直感の出番はなくならないらしい。

犯罪対策を立案・実施するには、ビッグデータをデータマイニング、そして経験に裏付けられた勘によって、戦略や戦術に直結する知識として編集することが必要だ。これは、「ビッグデータからスマートデータへ」「インフォメーションからインテリジェンスへ」などと呼ばれている。

アメリカやイギリスでは、このインテリジェンスを重視した「インテリジェンス主導型警察活動」が盛んだ。その特徴が先制的であるため、最近では「予測型警察活動」と呼ばれることが多い。

その代表格が、米国メンフィス市警察のリアルタイム犯罪センターが展開する「ブルークラッシュ」だ。Blueは警察官を意味し、CRUSHはCrime Reduction Utilizing Statistical History(統計履歴を活用した犯罪減少)の頭文字を取った略語である。

この予測システムは、メンフィス市警の犯罪分析課と、メンフィス大学のリチャード・ヤニコウスキーのパートナーシップの下で開発された。

ブルークラッシュでは、第一に、日時、場所、手口、天候、動機といった犯罪発生に関するデータ、そして住所、職業、顔色、髪形、声質といった犯罪者に関するデータなどをコンピュータに入力する。第二に、統計解析とGISのソフトウェアを実行して、犯罪のパターンとトレンドを抽出し、ホットスポット(犯罪多発地点)を特定する。

このようにして、いつどこでどのような犯罪が起きるかを予測できれば、パトロールにおいて、警察官の効率的な配置が可能になる。それによって、犯罪を未然に防いだり、犯罪者を現行犯逮捕したりする確率が高まるわけだ。

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リアルタイム犯罪センター 筆者撮影

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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