コラム

死者700万人、コロナ緊急事態終了...「本当の終息は、次のパンデミックが始まった時」の意味

2023年05月06日(土)15時01分
WHOのテドロス・アダノム事務局長

WHOのテドロス・アダノム事務局長(2022年11月) REUTERS/Willy Kurniawan/Pool

<公式発表で700万人、実際には2000万人もの死者を出したとも言われる新型コロナについて、ついにWHOが緊急事態の終了を発表した>

世界保健機関(WHO)は5日、新型コロナウイルス感染症について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当てはまらなくなったと発表した。2020年1月に「緊急事態」を宣言してから3年3カ月余、死者は公式発表で少なくとも700万人、実際には3倍近い2000万人に達している恐れがある。緊急事態の終了はパンデミックの終息を意味しない。

1週間当たりの死者はピーク時(21年1月)の10万人超から今年4月下旬時点で3500人超に減少。WHOの緊急委員会はコロナ関連の死者数、入院や集中治療を要する患者の減少、集団免疫の高さを強調し、コロナウイルスの変異による不確実性が残っていることを認める一方で「パンデミックの長期管理に移行する時期だ」と勧告した。

これを受け、WHOのテドロス・アダノム事務局長は「緊急委員会の勧告を受け入れる。コロナはもう緊急事態に当てはまらない。継続的な健康問題だと判断した。緊急事態の終了を発表することは希望に満ちたものだ」と述べた。緊急事態は深刻、突然、異常(または予想外)という3つの基準を満たす必要があり、最後まで残っていた深刻さも解消された。

WHOで緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は「緊急事態は終わったかもしれないが、脅威はまだそこにある。コロナウイルスは今後も感染し続ける。これがパンデミックの歴史だ。ほとんどの場合、パンデミックは次のパンデミックが始まった時に本当に終息する」と話した。

「政治的な配慮や技術的な考慮をもとに最終決定」

WHOで22年間、働いたロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)感染症疫学教授で英王立国際問題研究所(チャタムハウス)グローバル健康安全保障センター長のデービット・ヘイマン氏は今年2月、緊急事態の終了について筆者の質問に答えている。ヘイマン氏は15~16年に流行したジカ熱で緊急委員会の委員長を務めた。

「WHOの緊急委員会は事務局長に勧告するだけで、事務局長は政治的な配慮やその他の技術的な考慮をもとに最終決定を下す。政治的な決定というわけではない。政治的なリーダーを含むさまざまなグループからの意見を取り入れて決定される。事務局長がどのようにバランスをとっているかは分からない」とヘイマン氏は答えた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story