コラム

託児費用の無償化を一気に拡大...「育児支援」改革で、英経済は救われるか?

2023年03月18日(土)19時06分
イギリスの子供たち(イメージ画像)

イメージ画像 OwenPrice-iStock

<パンデミックをきっかけに深刻化した労働力不足を解消する「職場復帰」予算を、英スナク政権が発表した>

[ロンドン]経済成長を生み出す要因は労働力、資本、全要素生産性(技術進歩や効率化など)の3つだ。欧州連合(EU)離脱でEUからの移民労働者が減り、英国への直接投資も2017~20年の平均で1980年代以来、最低水準に落ち込む。そこにコロナ危機以来の労働力不足が成長の足を引っ張る。労働市場は逼迫し、賃金を押し上げ、インフレを悪化させる。

英国のジェレミー・ハント財務相は3月15日、23年度の春季予算を発表した。人呼んで「職場復帰予算」。リシ・スナク英首相が掲げる5つの優先課題のうちインフレ率の半減、経済成長、債務削減の3つを実現する。コロナ危機で離職する人が増え、労働力不足を解消するため、無償育児支援枠の拡大や高齢者の職場復帰支援が盛り込まれた。

英国のインフレ率は昨年10月に過去40年で最も高い水準の11.1%に達したものの、今年末までに2.9%に下がると予算責任局(OBR)は予測する。英国経済は景気後退を回避し、今回の春季予算で中期的に国内総生産(GDP)が上昇する見通しという。しかしコロナ危機以来、学生を除く生産年齢人口(15~64歳)のうち670万人が経済的に非活動状態になっている。

低所得者向け社会保障給付(ユニバーサル・クレジット)の申請者は現在、590万人。ハント財務相は(1)長期疾病者と障害者(2)生活保護受給者と失業者(3)高齢者(4)親──の4グループに焦点を当てた職場復帰対策を発表した。春季予算で労働市場に参入する人が11万人増えると予測している。

「働きたいのはやまやまだが...」

コロナ危機で英国では50歳以上が最も多く労働市場から退出した。早期退職を選択した最大の理由は年金への課税だ。このため「生涯」非課税限度額を撤廃し、「年間」非課税限度額を4万ポンド(640万円)から6万ポンド(960万円)に引き上げた。公共医療サービス(NHS)の臨床医のような高技能労働者が早期退職しないようインセンティブをつけた。

イングランドだけでも「働きたいのはやまやまだが、仕事に出ると育児をする余裕がない」と3歳未満の子供を持つ親の43万5000人が離職している。現在3~4歳児を対象にした無償の育児支援枠を(1)来年4月以降、2歳児に週15時間(2)9月以降、生後9カ月~3歳児に週15時間(3)25年9月以降、生後9カ月~3歳児に週30時間──に拡大する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

SHEIN、仏百貨店に初出店へ 地元が反発

ワールド

アルマーニ、株式売却で買い手候補に接触 ロレアルな

ビジネス

完全失業率8月は2.6%に悪化、有効求人倍率1.2

ワールド

トランプ氏、民主党寄り政府機関への支出削減へ ボー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story