コラム

世論調査に振り回される「孤独な独裁者」プーチン...戦争を終わらせないことで延命か

2023年01月28日(土)17時39分
ウラジーミル・プーチン大統領

ウラジーミル・プーチン大統領(1月18日) Sputnik/Ilya Pitalyov/Pool via REUTERS

<戦争が長期化する中でワグネル創設者プリゴジンなどロシア民族主義者が主導権争いを始めたが、プーチンは戦争長期化に安住しているように見える>

[ロンドン]ウラジーミル・プーチン露大統領によるウクライナ全面侵攻から間もなく1年。「死傷したロシア側の兵士は18万人に近づき始めている。ウクライナ軍の死傷者はおそらく10万人以上だろう。加えて約3万人の市民が殺害された」。ノルウェー軍の事実上の最高司令官エイリク・クリストファーセン氏は22日、同国のテレビ局TV2に明らかにした。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のバリー・ポーゼン教授は米外交誌フォーリン・アフェアーズで「ロシア軍は多くの間抜けなことをし続けたし、実際今でもしている。しかし軍事戦略全般に関して言えばモスクワはより賢くなったようだ」との見方を示し、「米国の推計によれば当時も今もロシアとウクライナの犠牲者の比率は1対1だ」と指摘している。

ロシア軍はウクライナ東部ハルキウ州と南部ヘルソン州から戦略的に撤退した。これで間延びした前線が大幅に短縮され、守りやすくなった。前線に沿って防御陣地を掘り、コンクリート製障害物や掩蔽壕(えんたいごう)を築く。地雷も敷設する。プーチン氏はクリミア半島とロシア本土を結ぶ「陸の回廊」を確保するのを優先しているように見える。

これに対して「プーチンの料理番」と呼ばれるロシア民間軍事会社ワグネル・グループ創設者エフゲニー・プリゴジン氏と、2014年の東部ドンバス紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮したロシア民族主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官はプーチン氏の戦争のやり方を批判し始めた。

「世論調査はロシアの政治的意思決定の主要部分を占める」

プリゴジン氏とガーキン氏は対ウクライナ戦争を支持するタカ派政治家を味方につけようとしている。米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は、露国防省を批判するロシア民族主義者はロシア軍の退役軍人、自分の傭兵部隊を持つ民族主義者、ロシアの軍事ブロガーと戦争特派員の3グループに分裂していると分析する。

ガーキン氏は退役軍人を代表しており、プリゴジン氏は傭兵部隊を持つ自称・民族主義者。2人は醜い主導権争いを繰り広げている。プーチン氏は戦争を終わらせないことで自分の延命を図り、ミサイルやロケット、カミカゼドローン(自爆型無人航空機)攻撃でウクライナ市民を疲弊させ、泥沼の消耗戦に持ち込み米欧に厭戦ムードを醸成しようとしている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ラガルドECB総裁早期退任報道は「うわさ」、仏中銀

ビジネス

仏自動車部品ヴァレオ、インド販売拡大に向け2億ユー

ビジネス

仏カルフール、年10億ユーロのコスト削減へ 中核市

ビジネス

アングル:「カタリスト待ち」の日本株、成長投資の中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 2
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 10
    極超音速ミサイルが通常戦力化する世界では、グリー…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story