コラム

「月給50万円でも看護師が集まらない」医療逼迫下、日本でも「命の選別」は始まっている【コロナ緊急連載】

2021年01月11日(月)10時27分

日本とイギリスでコロナ患者の受け入れ基準が異なるので日英を単純に比較することはできないものの、日本でも昨年10月、重症者や重症化リスクのある者に医療資源の重点をシフトするため入院の対象を65 歳以上、呼吸器疾患、臓器や免疫の機能が低下している患者、妊婦、重症、中等症の患者に絞っている。

「酸素吸入が必要なコロナ患者しか入院できない」

東京の医療従事者は筆者の取材に「都内の病院では酸素吸入が必要なコロナ患者にしか入院は認められていないのが現状だ」と打ち明ける。

大阪の病院関係者は「今起きているのはまさに医療崩壊だ。コロナに感染してICUに入るのも、入院するのも、ホテルで療養するのも何もかも敷居が上がり、自宅療養が増えている。酸素吸入が少し必要な程度なら若い人は入院させてもらえない」と証言する。そして、こう続けた。

「ベッドが空いていても高齢者優先。高齢者でも元気な人は入院するなと言っている。1~2カ月前なら軽症の高齢者でも重症化するかもしれないからと入院させて経過をみることができた。今はそれもできない状況だ。日本で感染者ほどに重症者が増えていないのは実は人工呼吸器を着けさせてもらえないからだ」

「以前は呼吸不全に陥った重症の高齢者が入院してきたら人工呼吸器を着けて治療していたが、今は医師が家族に"このまま看取りましょう"と言ってあきらめさせ、一般病棟で看取っている。こうした患者は重症を経由せずに死亡にカウントされる。だから重症者は増えない。人工呼吸器は助かる見込みのある患者のためにとってある」

少なくともこの病院で起きていることは、未曾有の危機に直面しているロンドンの病院で行われている緊急トリアージそのものだ。そしてこの関係者は民間病院が8割(病院数)を占める日本特有の問題点も口にした。

「医療崩壊はとっくに起きている。まず看護師をICUやコロナ担当に回すことができない。他の病気への対応が手薄になるからだ。うちの病院のコロナ手当は医師も看護師も1日5千~1万円。誰もやりたくないというのが本音だろう。大阪コロナ重症センターは月給50万円でも看護師がなかなか集まらなかった。100万円と言われたらすぐにでも集まるのかもしれないが...」

(つづく)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、ガザは「人道危機」 学生の怒りに理解

ワールド

中国、日米欧台の工業用樹脂に反ダンピング調査 最大

ワールド

スロバキア首相銃撃事件、内相が単独犯行でない可能性

ビジネス

独メルセデス、米アラバマ州工場の労働者が労組結成を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story