コラム

中国との「価値の戦争」に備えよ 日本やインドとも連携を 英保守党強硬派が報告書

2020年11月03日(火)19時14分

習主席の全体主義への青写真となる昨年11月の「新時代の愛国教育実施要項」には「愛国心は中国人民の心と魂であり、中国人民の最も重要な精神的富であり、中国人民が国家の独立と尊厳を守るための強力な精神的動機だ」と記されている。これが習主席の主導する「価値の闘争(戦争)」の核心だ。

葬り去られた「香港の自由」。次は台湾統一だ

「価値の闘争」の犠牲になった「香港の自由」は香港国家安全維持法の強行により葬り去られ、次は台湾の民主主義が危機にさらされている。パートン氏は「西側という言葉は時代遅れになった。境界は北大西洋条約機構(NATO)対ワルシャワ条約機構より流動的だ。民主主義国家による有志連合の結成が必要だ」と提案する。

対中「新冷戦」に巻き込まれるのを避けるため、イギリスは「特別な関係」のアメリカだけでなく、アングロサクソン系電子スパイ同盟「ファイブアイズ」のオーストラリア、カナダ、ニュージーランドに加え、日本、インド、そして離脱後もEUと民主主義の有志連合をつくっていくことが重要だと説く。

その準備段階として(1)中国共産党の本質を理解するため中国と中国語教育の充実(2)中国共産党の干渉、中国との研究開発協力、中国によるハイテク企業買収に対処するため政府横断的な中国国家戦略実施グループの強化(3)中国の圧力に動じず、イギリスの価値観やシステムへの信頼を再確認する必要があるという。

パートン氏は元閣僚や元政府高官が中国系企業に天下りするのを制限するとともに、英下院議員へのロビー活動に中国共産党が過度の影響力を持たないようロビイストはクライアントを登録するなど透明性を高めることも求めている。

「われわれと民主主義という価値観を共有する台湾を中国共産党が武力で統一しようした場合、グローバルな人権への最大かつ最も緊急な攻撃になる恐れがある。これは中国に対する内政干渉という問題ではない。政府と社会のかたちを自分たちで選ぶという人間の基本的な権利の問題だ」

「英政府はもし可能なら他国と連携して、中国共産党が武力で台湾を統一するなら国交と貿易関係の断絶を含む厳しい措置になることを事前通告しておくべきだ。そうなれば中国の貿易は大打撃を受け、失業と社会不安が中国共産党体制を揺るがせる可能性がある」とパートン氏は結んでいる。

武力による台湾統一を越えてはならない最後の一線(レッドライン)と西側はみなし始めた。政治的な意志を統一して民主主義の有志連合を結成できるのか。台湾海峡がいよいよきな臭くなってきた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story