コラム

新型コロナ、封印された「第2波」 日本はいつになったら「失敗の本質」から学べるのか

2020年08月24日(月)10時30分

1日当たりの死者数で見ると、現段階でピークアウトしたとはとても言えない。報告日、発症日、死亡報告日でカーブは変わってくる。

nihonshisha.jpg

日本では科学と政治が区別されていない。政治判断による政策決定を正当化するために科学者が使われるように見えてしまう。科学は政府、政治指導者、そして市民に十分な科学的知見を提供し、あとは政治に最終判断を委ねるしかないにもかかわらずだ。

日本の「失敗の本質」とは

英医学雑誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルにロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のエリアス・モシアロス教授のチームが「日本における新型コロナウイルスの復活」という論説を発表し「日本政府は失敗を繰り返そうとしているように見える」と警鐘を鳴らしている。

LSEのチームは、日本は当初、3密を重視するクラスター対策で感染を抑制できたものの、3月中旬に始まった感染拡大期に対処できなかったと分析する。

緊急事態宣言には拘束力がなく市民の自粛に依存したため、人口100万人当たりの死者は西太平洋地域ではフィリピン、オーストラリアに次ぐワースト3になったと手厳しい。LSEのチームが指摘する日本の「失敗の本質」は次の5点だ。

(1) PCR検査数を拡大する十分な努力を怠った。このため未診断の症例数が増え、地域や病院での感染が増えた。

(2) 患者情報の報告を非効率な紙ベースのシステムに依存。このため保健所は3月中旬まで手一杯になった。

(3) 政府のコミュニケーション戦略は緊急事態宣言下でも不十分だった。3密回避のメッセージは明確だったが、行動変容につながるほどの説得力がなかった。

(4)専門家会議の独立性が不十分。経済学・行動科学・コミュニケーションなど重要な分野の代表が含まれていなかった。

(5)政府は説明責任と透明性を欠いていた。

「なぜ」に答えようとしない政府と分科会


安倍晋三首相は「失敗の本質」から何も学んでいない。専門家会議は6月末に廃止され、分科会に移行した。さらに悪いことにコロナ感染者が再び急増し始めた時期に、観光業を支援するため「Go To トラベル」キャンペーンを実施するチグハグさを露呈した。

PCR検査数は 1日当たり最高5万5000件を超えるまでになったものの、「検査能力を拡充する方法についてほとんど議論されていない」と論説は指摘する。デジタル化の道はさらに遠く、最後はこう締めくくられている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story