コラム

独裁政治、なのに「豊かで幸福」な国が続々...カンボジア選挙が示した民主主義の「不都合な真実」

2023年08月15日(火)18時15分
フン・セン氏の息子フン・マネット氏

フン・セン氏の息子フン・マネット氏 CINDY LIUーREUTERS

<不公正な選挙を経てフン・センから息子マネットへの権力世襲が行われたカンボジアだが、国民は圧政で貧困にあえいでいるわけではない>

カンボジアで総選挙が行われ、与党が圧勝。フン・セン首相は辞任を表明し、息子のフン・マネット氏(写真)に首相の座を譲ることになった。今回も野党を徹底的に弾圧して実施された不公正な選挙であり、北朝鮮さながらの権力世襲化が行われた。ではカンボジア国民が独裁者による圧政で貧困にあえいでいるのかというと、そうではない。

長く続いた内戦の影響で、東南アジアのなかでは貧しい部類に入るものの、同国の成長率は極めて高く、過去20年間の平均GDP成長率(実質)は6.7%もある。特に近年はIT化が進み、国内経済は目覚ましい発展ぶりだ。

フン・セン氏は、内政面では独裁的な統治を行う一方、ビジネスに親和的で経済は活発である。欧米各国からは独裁政権と批判されているものの、中国の力を借りることで、制裁の影響を回避している。

一方で、内戦後の国連統治の名残であるドル経済をあえて継続し、中国にも完全支配されないよう絶妙なバランスを保っている。

非民主的な政治と豊かさを両立させる国が増加

カンボジアに限らず、シンガポールやタイ、ベトナムなど、東南アジアの多くの国が非民主的な政治体制と豊かさを両立している。シンガポールは表面的には民主国家だが、現首相のリー・シェンロン氏は、建国の父であるリー・クアンユー氏の息子であり、カンボジアや北朝鮮と同様、権力が世襲されている。

シンガポールは国民に対する監視が厳しいことでも知られているが、1人当たりのGDPは日本の2.5倍もあり圧倒的に豊かである。子育て環境は日本とは比較にならないレベルで、多くの日本人がよりよい教育環境を求めてシンガポールに移住している。

タイも軍事政権が続いており、しばしば民主派に対する弾圧が行われているが、対外的にはオープンな政策を採用しており、シンガポールと同様、多くの欧米人を引き寄せている。政治体制について特段の関心を持たない一般的なビジネスパーソンにとって、両国はワークライフバランスを追求できる理想的な国となっているのが現実だ。

英誌エコノミストが発表している各国の民主主義指数と、人口やGDPなどの統計データを組み合わせて分析すると極めて不都合な真実が浮かび上がる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領、12日にゼレンスキー氏と会談 ホワイトハ

ワールド

米ペンシルベニア大学長が辞任、反ユダヤ主義への対応

ワールド

北朝鮮、国連のガザ停戦決議案に拒否権行使した米国を

ワールド

アングル:中国の矛盾示す戸籍制度、改革阻む社会不安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イスラエルの過信
特集:イスラエルの過信
2023年12月12日号(12/ 5発売)

ハイテク兵器が「ローテク」ハマスには無力だった ── その事実がアメリカと西側に突き付ける教訓

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「未来の王妃」キャサリン妃が着用を許された、6本のネックレスとは?

  • 2

    ショッピングモールのデザインが「かつての監獄」と同じ理由

  • 3

    「ホロコースト」の過去を持つドイツで、いま再び「反ユダヤ」感情が上昇か...事件発生数が急増

  • 4

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 5

    中身が「透けすぎ」...米セレブ、派手なドレス姿で雑…

  • 6

    大統領夫人すら霞ませてしまう、オランダ・マキシマ…

  • 7

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 8

    英ニュースキャスター、「絶対に映ってはいけない」…

  • 9

    キャサリン妃の「ジュエリー使い」を専門家が批判...…

  • 10

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 1

    「未来の王妃」キャサリン妃が着用を許された、6本のネックレスとは?

  • 2

    シェア伸ばすJT、新デバイス「Ploom X ADVANCED」発売で加熱式たばこ三国志にさらなる変化が!?

  • 3

    下半身ほとんど「丸出し」でダンス...米歌手の「不謹慎すぎる」ビデオ撮影に教会を提供した司祭がクビに

  • 4

    反プーチンのロシア人義勇軍が、アウディーイウカで…

  • 5

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 6

    周庭(アグネス・チョウ)の無事を喜ぶ資格など私た…

  • 7

    「傑作」「曲もいい」素っ裸でごみ収集する『ラ・ラ…

  • 8

    英ニュースキャスター、「絶対に映ってはいけない」…

  • 9

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 10

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破壊する瞬間

  • 4

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 5

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 6

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者…

  • 7

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

  • 8

    レカネマブのお世話になる前に──アルツハイマー病を…

  • 9

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 10

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story