コラム

高橋洋一vs.田中秀明「統合政府論」バトルを投資家視点で見ると

2016年12月06日(火)18時38分

バブル経済を止められなかった

 日本経済に深刻なインフレが発生した場合、とりわけ景気回復を伴わない形でインフレが発生した場合、日本政府は本当にそれをコントロールできるのだろうか。

 米国は1970年代に深刻なスタグフレーションを経験している。最終的には、ボルカーFRB(連邦準備制度理事会)議長(当時)がFF金利(米国の基準となる政策金利)を一気に20%まで引き上げるという驚くべき荒療治でインフレを退治した。しかし、それまでの過程においては、前任者であるバーンズ議長が政治的圧力に抗しきれず、インフレの最中に金利を引き下げ、物価上昇をさらに加速させるという大失態を演じている。

 決断力にかけては日本をはるのかに凌ぐ米国人ですら、世論の圧力を跳ね返すのは難しい。空気に支配される日本はなおさらである。中高年以上の世代であれば、1980年代のバブル経済の最中、不動産価格や株価の異常な高騰を抑制するための引き締め策が、幾度となく世論の圧力で撤回させられたという過去を知っているはずだ。

 現時点で物価は上昇しておらず、急激なインフレに転じる可能性は低い。投資家の多くは、インフレに対して過剰な心配はしていないだろう。だが一方で、量的緩和策によるマネーの過剰供給は、確実に将来のインフレ要因になるとも考えている。特に来年以降は、トランプ政権の誕生で日本の金利も上昇しやすい環境になる可能性が高い。

 投資家の多くは、徐々にではあるが、インフレ・リスクが高まっていると判断するはずだ。それが実務家の自然な発想であり、そのような中で統合政府を実行すれば、投資家心理は一気にインフレ・モードに突入するだろう。

【参考記事】ヘリコプターマネー論の前に、戦後日本のハイパーインフレを思い出せ

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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