コラム

消費増税の再延期で高まる日本経済「本当の」リスク

2016年06月14日(火)16時47分

 だが、デュレーションの長期化を進めたところで、影響を緩和する効果しかなく、金利上昇が現実のものとなった場合、日本政府は超緊縮財政を余儀なくされることになるだろう。

どんな経路であっても、最後は国民負担で帳尻を

 多くの人はあまり意識していないかもしれないが、超緊縮財政が現実のものとなれば、日本経済への影響は極めて大きなものとなる。財政支出が一律削減となった場合には、年金や医療など、国民生活も直撃することになるだろう。国債が紙切れになっていないからといって、こうした事態を放置してよいはずがない。

 もっとも、現実にはまったく別の事態となるかもしれない。予算が組めなくなる水準まで、徐々に金利が上昇するのではなく、非連続的な変化が発生するというシナリオである。そのトリガーとなるのはおそらく為替だろう。

 日本の国債市場は、特定の金融機関に対し、有利な条件で国債入札に参加できる「国債市場特別参加者」(プライマリー・ディーラー)資格を与えるなど、一種の統制市場となっている(今月8日、三菱東京UFJ銀行がこの資格を返上することが明らかとなり、市場には衝撃が走った)。統制市場においては、危機が迫っていても、ギリギリまで平穏な取引が維持できる可能性が高い(その分、瓦解した時の影響も大きくなるが)。

 ところが為替市場だけはほぼ完全な自由市場となっており、ここでは徹底した市場原理主義が貫かれている。国債の金利上昇リスクを市場が察知した段階で、円安が一気に進む可能性は否定できないだろう(現実に国債の金利が急上昇していなくても)。為替介入などによって円安に歯止めをかけることができなければ、最終的には激しいインフレという形で実質的な政務債務の削減が行われることになる。

 予算が組めず増税と緊縮財政が強制されるのか、インフレによる実質債務の減少になるのかの違いであり、どちらにせよ国民負担で帳尻を合わせることに変わりはない。前者の場合は税金という形で所得のある人や消費者が負担し、後者の場合には預金者から実質的に預金の一部を奪うことになる。財政の世界にフリーランチ(タダ飯)は存在しない。

 これらを回避する唯一の方法は、日本経済がグローバルな競争力を取り戻し、めざましい経済成長を実現することである。経済成長さえ実現すれば税収増によってこうした問題は一気に解決する。だが今の日本に苛烈な競争社会を受け入れる雰囲気はほとんど感じられない。この選択肢も結局は選択されない可能性が高いだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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