コラム

消費増税の再延期で高まる日本経済「本当の」リスク

2016年06月14日(火)16時47分

 政府債務の絶対的な適性水準がなく、相対的に判断されるという現実を考えると、今回の消費増税再延期によって、日本は事実上、財政再建目標を放棄したとみなされる可能性が高いだろう。

国債の金利が7%になると予算を組めなくなる

 もっとも、財政再建目標を放棄したからといって、すぐに大きな問題が発生するわけではない。量的緩和策が継続する限り、日銀が大量の国債を買い入れるため、国債の価格は下がらないからである。だがこれは、裏を返せば、日銀が量的緩和策の停止に追い込まれるような事態になった場合、日本国債には大きな売り圧力が生じることを意味している。

 市場関係者の中で、日本国債が暴落して紙くずになると考えている人などほとんどいない。だが、近い将来、国債の金利が上昇すると考える人はかなりの割合に達するはずである。私たちが警戒すべきなのは、国債が紙切れになるといった極端な話ではなく、金利の上昇リスクであり、それだけでも日本の経済や国民生活に与える影響は極めて大きい。

 政府の2015年度予算(一般会計)における国債の利払い費は10兆1472億円となっている。同じく2015年度における政府債務(普通国債のみ。地方分などは除く)の残高は807兆円だったので、債務の平均利子率は1.25%ということになる。日本では低金利が続いてきたので、政府は極めて安価に資金を調達できていたことが分かる。

 だが、これだけの低金利が続く現状でも、一般会計予算に占める利払い費の割合は10%を超えている。もし日本国債の金利がたとえば7%に上昇した場合、単純に2015年度予算に当てはめると利払い費は56兆円を越える。同年度における税収は約55兆円なので、利払い費だけで税収を上回ってしまう計算だ。このような事態になった場合、日本政府は事実上、予算を組めなくなってしまう。国債の金利が7%に上昇しただけで、日本政府は機能不全を起こしてしまうというのが現実なのだ。

 もっとも、金利が上昇してすぐにこうした事態に陥るわけではない。新しい金利が適用されるのは、新発債と借換債だけなので、すべての国債に高い金利が適用されるまでには数年の余裕がある。

 あまり積極的に説明していないが、財務省はここ数年、国債のデュレーション(残存期間)の長期化を進めている。 2016年度の見込みは8年9カ月(発行残高ベース)だが、2008年度には6年3カ月だったことを考えると、かなりのハイペースで長期化を進めていることが分かる。当然のことだが、財務省が必死になってデュレーションの長期化を進めているのは金利上昇リスクを警戒しているからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率、1─3月は前年比6.0% 予想上回る

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ

ワールド

英当局、国家安保法違反で3人逮捕 香港長官「でっち

ワールド

焦点:ロシア新国防相は「ソビエト的」、プーチン氏盟
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story