コラム

なぜ日本のワクチン接種は遅々として進まないのか

2021年05月15日(土)15時33分

それにアメリカの製薬企業の経営陣は多国籍だ。ファイザーのCEOはギリシャで育ったユダヤ系の人だし、ファイザーと新型コロナワクチンを開発した独ビオンテックは、トルコからドイツに移住した家庭で育った医師が立ち上げた企業だ。日米関係が重要だから日本を優遇、とはならない。

日本国内には積年のねじれもある。厚生労働省が今回、新型コロナへの対応が遅かったのは、法的根拠のない特例を作って、後でその責任を自分たちだけに負わされてはかなわない、という意識があったことも原因だろう。実際1996年には、当時の菅直人厚生大臣が配下の官僚を裁判に突き出す形となった、薬害エイズ事件のような前例がある。

そして戦後、結核がほぼ撲滅されて、全国津々浦々の感染症対策拠点、つまり保健所を骨抜きにしていたことも、コロナ対策の足を引っ張った。日本では医師の過半が個人医院(診療所)を経営しており感染症には対処できず、大病院でも感染症用の病床や機器だけでなく、担当の医師や看護師も足りない。そして政府債務残高がGDPの2年分以上にも達した今、財務省は感染症対策の予算を簡単には増やせない。

こうして日本は、皆が責任を果たしているようで意味のある結果は出てこない、無責任体制になっている。「人間を不幸にするシステム」なのだ。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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