コラム

中国は日本を誤解しているのか

2016年05月27日(金)17時30分

 三つ目には日中間の経済交流に関する認識を改めることを求めていた。一方が他方に依存しているという認識ではなく、日中両国は経済交流に関しても平等で互恵関係にあるという認識を持つべきだというのである。

 四つ目には地域と国際問題に関して、日中両国は互いの正当な利益と関心を尊重した対話をするべきであって、日本は中国に対する対抗心を捨てて、地域の平和と安定と繁栄のために中国と努力すべきだ、というのであった。

なぜ不満なのか?

 なぜ中国は不満を露わにした要求を突きつけるのだろうか。

 中国側は日本の外交政策に、一貫した中国を包囲する政策的意図を見出し、それに警戒するからである。例えば、岸田外相が中国訪問の後にタイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムを歴訪したこと、そして安倍総理が同時期にイタリア、フランス、ドイツ、英国、さらにはロシアを訪問したことについて、中国国内の研究者は、昨年の9月に国会で採択された安保関連法(「平和安全法制整備法」 と「国際平和支援法」の2本の法律により構成される)が今年3月末に施行されたのちの、日本政府による中国に対して釘を刺す戦略の一環だと、みる。日本は中国を封じ込めようとしているというのである。

 中国は、4月に広島でおこなわれたG7外相会談が「海洋安全保障に関するG7外相声明」において、東シナ海や南シナ海における「現状を変更し緊張を高め得るあらゆる威嚇的、威圧的又は挑発的な一方的行動に対し、強い反対を表明する」ことを確認したこととも連続した政策だとも理解する。

「不満」は、それ以前から示されていた。1月6日に北朝鮮が核実験を実施した後、その対応をめぐって岸田外務大臣と王毅外交部長との電話会談は、すぐに実現できなかったという(3月14日に電話会談がおこなわれた)。友人の中国の研究者は、北朝鮮問題というグローバルな問題について、その問題の解決能力を持つアクターは中国と米国であり、日本はその外にあることを示しそうとする意図が中国側にはあったからだ、という。これは3月末にワシントンで開催された第4回核・セキュリティーサミットで米中首脳会談が開催されたことの意義を強調する一方で、日中首脳会談を設けなかったこととも関係しているという。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

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