コラム

選挙前だけ大衆受けを狙い、当選後は本性を現す...わけではなかったスターマー英首相

2025年05月20日(火)16時14分

彼はその逆を行くはずだった――選挙戦中には広い支持を得るために中道っぽい態度を示し、権力の座に就いてから本性を見せるのだろう、と。

その思い込みの通りになるなら、最初こそ人々は懐疑的になったり怒ったりするかもしれないけれど、そのうちすぐに「真の労働党政権らしい様子」が見て取れるようになり、ほらやっぱりね、と納得の展開になるはずだった。


そうは事が運ばなくとも、例えば、膨大な国から膨大な人々や膨大な文化を受け入れて「多文化のイギリス」が不可逆的な現実になるような、「真の変化」を実現する機会は、次の選挙までには必ずや訪れるだろう、と思われていた。

スターマーにとっての問題は明らかだ。彼は2024年総選挙で、不安定な有権者の連合体のおかげで勝利した。筋金入りの労働党有権者は、スターマーが実際はひそかに自分たちの仲間であると期待して投票した(その期待は今や打ち砕かれた)。さらには、単純に保守党に嫌気が差していた多くの人々(ボリス・ジョンソンがルールと現実を傲慢に無視する態度には人々の怒りが集まり、リズ・トラスは保守党の経済運営能力の評判を傷つけた)の浮動票も集まった。

それに加えて、スターマーは投票率の低さにも助けられたと思う。多くの「主流」のイギリス人は、わざわざ投票しようとしなかった。彼は「地滑り的」な勝利を収めたが、それはもろくて奇妙に僅差の勝利であり、比較的少数の熱量低い有権者たちの力によって、議会でのギリギリ過半数を獲得した。

今のところ支持率はひどい

現時点では、労働党支持者の多くがこれほど怒っているなか、次の総選挙でスターマーが一体どうやって勝利することができるのか、想像するのは難しい。どこか別の層から、労働党支持層に匹敵するほど多くの「代替」有権者を獲得するのは容易ではないだろう。

今のところ、スターマーの支持率はひどい。僕は実際のところ、世論よりずっと彼に同情的だ。ウクライナと国際問題における彼のリーダーシップや、インドやアメリカとの貿易交渉、そして何より公約を反故にして民主的プロセスを侮辱したりしなかったことを、僕は評価する。

問題を抱えているのはスターマーだけではない。保守党は混乱状態で、再生に苦労している。そんななかで極右「リフォームUK」政党が、主要野党への道を突き進んでいる。地殻変動が起こっているとするのなら、労働党の支持基盤がこれまでよりさらに弱まっても、小選挙区制はまだスターマーに有利に働くかもしれない。

当分の間、彼は自分の仕事をやり続けて希望を持ち続けることしかできないだろうが、実はそれこそ、むしろスターマーが得意とすることだと思う。彼は先見の明に欠けるものの、労働倫理や基本的な能力を持ち合わせていて、許されないような性格の欠陥はないようだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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