コラム

イギリス都市部の至る所に......もはやキツネは田園地帯の動物ではない

2024年08月02日(金)18時13分

彼らの存在は悪いことばかりではない。ウサギの個体数の増加を抑え、ネズミなどの害獣を殺すのに役立つ。

しかし、彼らはまた、多くの家禽や子羊を殺しているので、農家はキツネの数をコントロールしようと試みている。

許可を得ていない方策の1つは、犬を使った組織的なキツネ狩りで、これは2004年に禁止された。動物愛護活動家や、田舎の人たちからすれば「都会の左翼たち」に、残酷な手法だと判断されたためだ。だから他の駆除方法を見つけなければならなくなった(主に銃殺)。

そのため、キツネ狩りの禁止でキツネの数が爆発的に増加することはなかった。そして、都市部のキツネの急増(約5倍になった)は、1990年代初頭から始まった。

全体的なキツネの個体数は2018年のピークから減少しているようで、これはおそらく、新タイプである都市部のキツネの寿命がかなり短いことも一因だろう(車にはねられるし、ゴミ箱食は田舎のキツネの食事ほど健康的ではない)。

襲われた人の悲鳴みたいな鳴き声

僕はトゥイッケナムで、留守中の友人に代わって家に滞在しているのだが、毎晩帰り道でキツネとすれ違う。

newsweekjp_20240802093810.jpg

トゥイッケナムで筆者が遭遇したキツネ COLIN JOYCE

夜になると、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてくる。

キツネの鳴き声は赤ちゃんが泣いているような声だという人もいるが、もしそうなら、邪悪なゴースト赤ちゃんだろう。初めて聞いた人はきっと、誰かが襲われて悲鳴を上げていると思うに違いない。

この家での僕の任務は主に、友人のネコの世話をすることと、正しい日にゴミ出しをすること。そして昨日、僕が深夜ごろにゴミ出しに行ったとき、ネコが家を飛び出して、あらゆるキツネがゴミ箱からごちそうを楽しむスペシャルな夜へと飛び出して行った。

この猫はいつもは夜間に家の中にいることが多いから、僕はちょっと心配になった。大人のネコはキツネから身を守ることができるというのが一般常識だし、キツネはネコよりもっと簡単な獲物を狙う習性がある。

それでも、数の増えすぎた都会のキツネが食べ物に飢えていたら......、キツネが群れで獲物を狩ることを覚えていたら......と、「もしもの事態」を考えて1時間も気をもんだ。

するとそのうち、ネコが家に戻ってきた扉の音が聞こえ、僕は血も凍るようなキツネたちの鳴き声を耳にしながら、安らいで眠りに落ちた。

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 8
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 9
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story