コラム

イギリスで知らない間に広がっていたギャンブル汚染

2017年09月14日(木)19時00分

依存性が高いFOBTはギャンブルの「クラック・コカイン」と批判されている UK Gaming Channel/YOUTUBE

<ギャンブルの弊害がじわじわと広がっているイギリスだが、特に依存性が高いと言われるゲーム機「FOBT」に関しては関連犯罪や中毒症状が社会問題になっている>

ギャンブルについて、僕は今まさに「目からうろこが落ちた」ように感じている。人々はもう何年も前からギャンブルの危険性を口にしていたのに、僕個人は全く興味がなかったので(ギャンブルは僕が手を染めていない唯一の悪行だ)、今になるまで気付かなかった。

ギャンブルは、アルコールや薬物とは違い、はまり込んでしまってもふらついたりプンプン臭ったりするわけではないから、ある意味「隠れ中毒」だ。他人からは簡単に分からないし、中毒状態のギャンブラー本人もそれを隠そうとするだろう。

前回のコラムを書いて以降も、僕が以前なら見過ごしていたようなギャンブルについての話題は相変わらず続いている。

9月6日、英労働党はギャンブル広告に対する規制を求めた。プレミアリーグ全20チーム中、なんと9チームものユニフォームにスポンサーのギャンブル企業のロゴが入っている。子供たちはそうしたロゴ入りユニフォームを目にするだけでなく、レプリカユニフォームを身につけもする。

ほんの数週間前には(アーセナル対ストーク・シティの試合が行われたときだ)、ストーク・シティのホームスタジアムが、ギャンブルサイトの名前にちなんで「bet365スタジアム」と名付けられていたことに気付いた。卑しいし品位に欠けるし、普通にスポンサー企業の名前を付けるよりずっとひどいし、スポーツ発祥の古代ギリシャの精神からもかけ離れているように感じられた。

【参考記事】大学も就職も住宅も「損だらけ」のイギリスの若者たち

悪習から抜け出せない仕組み

あるギャンブルサイトでは、顧客が自主的に退会してもアカウントは生きていて、いつでもギャンブル生活に戻れるようにアクセス可能な状態になっている、という報道もあった。そのサイトの運営会社が罰金刑を受けたという日に、僕はその記事を目にした。罰金の額が予想よりかなり少なかったので、その企業の株価は急騰した。

他にも、ギャンブルサイトの賭けに負けた人々から巻き上げた賭け金から、予想屋が利益をむさぼっていたという記事もあった。予想屋は勝ち目がないほうをユーザーに勧め、サイト側から報酬をもらっていた。その予想屋の悪評が広がらないようにするため、過去の悪質お勧め情報をネット上から完全消去する巧妙な手法も存在したらしい。

先日の夜、僕はテレビを見ながらうたた寝をしてしまった。ふと目を覚ますとITV(イギリスで史上最も人気のある放送局)がギャンブル「番組(らしきもの)」を放送していた。ルーレットが回り、テクノミュージックが流れ、賭け終了のカウントダウンが始まり、電話番号と、タックス・ヘイブン(租税回避地)のチャネル諸島の企業名が流れる......。僕は見るに堪えなかったが、でもその気になれば、夜中の1時に自宅から、90秒かそこらごとに回されるルーレットに賭けることだってできるわけだ。通話はもちろん無料。番組は何時間も続いていた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ米政権、航空会社と空港に健康的な食事と運動

ワールド

トルコがロシアからのガス輸送を保証 =ハンガリー首

ワールド

中国首相「関税の影響ますます明白に」、経済国際機関

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米FOMC控え様子見姿勢も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story