コラム

加計学園問題は、学部新設の是非を問う本質的議論を

2017年06月19日(月)17時00分

では具体的な検討事項について。様々ある分科会やワーキング・グループの中でも、獣医学部設置が今治市である以上、より現場に近い声として今治市の分科会に着目すると、今治市分科会は2回(第1回平成28年9月21日が46分、第2回平成29年1月12日が58分)開催されています。うち第2回目の分科会(その直前の1月4日に獣医学部新設は「1校に限り」認めるとの告示あり)にしか獣医学の有識者は出席されていません。

お2人の獣医学部教授は獣医学部新設に総論賛成しつつも、
▼国家試験への対応
▼参加型臨床実習の施策
 (1)産業動物、公衆衛生の具体的プログラム
 (2)160人の大量生徒数で5年生以降の参加型臨床実習
 をいかに実施するのか
▼オール四国での取り組みの必要性
▼地域偏在についての具体的対策
▼出口対策(就職先)
など、個別の具体策の欠如を専門家として、教育現場の実状を踏まえて指摘をしています。

特に少数でしか実施できない参加型臨床実習ですが、新設校では160人もの大人数の生徒を抱え、受け入れ先の確保をどうするのか。現獣医学部教授としてご自身が参加型臨床実習の施策で「ひいひい言っている」との象徴的なコメントが2回も出てきていることから、議論要旨とは言えその切実さが伝わってきたのは言うまでもありません。

上記指摘に対して、分科会に参加していた加計学園側からの回答ですが、 参加型実習については「これは難問」とだけ、実際のカリキュラムが出てきてから詰めるとするに留まっています。では、この直後に開催された平成29年1月20日の諮問会議で今治分科会でのこうした専門家からの指摘を拾い上げたのかと思いきや、具体的に審議した形跡は議事録からは見受けられません。

【参考記事】共謀罪法案、国会論戦で進まない対象犯罪の精査

個人的な話ではありますが、今治には数年前にお邪魔をする機会があり、実際に地元経済界のお声も直接・間接的に聞き、その際に獣医学部誘致に何年も前から取り組んでこられたこともうかがっています。今治だけでなく本当の意味での地方創生に結びつくような、各地域の地場産業活性化の重要性も認識しているつもりです。

であるからこそ、獣医学部を誘致するならより抜かりない形での実現が誘致先にとても重要で、本質論に則った国家50年、100年の計が国益にも通じると考える次第です。誘致したはいいが、結局地元の負担が増えただけだったでは元も子もありません。

議事録を見る限り、獣医学部新設へ総論賛成で進む国家戦略特別区域諮問会議の中で多少なりとも懸念を示していたのは麻生財務大臣兼副総理です。鳴物入りで作った法科大学院や柔道整復師の規制緩和などを例にあげ、「上手くいかなかった時の結果責任を誰がとるのかという問題がある。この種の学校についても、方向としては間違っていないと思うが、結果、うまくいかなかったときにどうするかをきちんと決めておかないと、そこに携わった学生や、それに関わった関係者はいい迷惑をしてしまう」と発言。こうした指摘に対する回答はきちんと出ているのか?

そもそも、獣医学部を設立する目的や意図はどこにあり、世界レベルの学部新設の要諦とは何かを獣医学や医学の観点も踏まえた上で審議してきたのであれば、いずれの疑念へも明解な回答が直ちに出てくるため、物議を醸しだす余地すらないはず。少なくとも政治的混乱の部分は、実のところ与野党とも獣医学教育や人獣共通感染症などの「本質」に関心がないがゆえ生じていると言えるのはないでしょうか。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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