コラム

極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(後編)

2017年04月13日(木)16時00分

ちなみに、ルペン氏率いる「国民戦線」が主張する「移民排斥」が日本国内では誤解されることが多いようですが、彼らのいう「移民排斥」はいわゆる民族主義的なものではありませんし、「純血主義」などとは全く違います(移民は次々と仏国籍になるため、昔からフランスの住民人口中、外国人の比率は約6~7%)。両親とも外国人で本人も移民でも、フランス国籍になっていれば、就職や公共住宅への入居などの際には「国民優先」の方針で「優先」される側になるという具合です。

前述の通り、本当の意味で人種差別的だったのはかつての国民戦線の党の創始者であり、その頃の残党は党内に多少残ってはいるにせよ、マリーヌが党を引き継いだ現在、かつての国民戦線のイメージからは随分と変わってきた点が日本国内の報道では欠落しているようです。

ところで、最新の動向では、2位のマクロン氏の勢いがここのところ停滞気味になり、代わりに左派のメランション氏の勢いが増してきています。「秀才」マクロンは若さと新しさでブームになりましたが、皮相さがバレてきているそうです。ルペン対マクロンが差し詰めトランプ対クリントンなら、ルペン対メランションはトランプ対サンダースの様相となります。

【参考記事】大統領選挙に見るフランス政治のパラダイムシフト

メランション氏についてはルペン氏以上に日本での情報が枯渇していますので、その人となりや政治信条に関しては、つい数日前に開催されたマルセイユでの選挙集会の様子を紹介するのが端的かと思われます。地中海を背景に立ち、昨年シリアから海を渡って逃げてきて溺死した難民たちのことから語り、皆でしばし黙祷。

途中では、「メランション!メランション!」と歓呼する聴衆をたしなめ、「あなた方が支持するのはメランションではなく、『共通の未来』(メランションの団体「屈しないフランス」は政策を説明した冊子を『共通の未来』と題しています)という政策プログラムなんだぞ、あなた方自身が自立して行動しなきゃならんのだ」と発言。

最後は「平和」のための候補として立つと宣言し、経済危機に苦しむギリシャへの連帯のしるしに、ギリシャ人詩人が非常に具体的な表象で平和を歌う長い詩(詩人ヤニス・リッツォスの詩)を朗読して、それをもって締めくくるという具合でした。

「もし決戦がルペンVSメランションならば、時代は完全に反グローバリズム。その上で、特殊主義と普遍主義が対決する人間観の闘いになる」との堀教授のツィートは、そのマルセイユでの演説を受けてのコメントでもあります。

メランション氏の支持率急上昇で仏大統領選の行方はますます混沌とし、予測不能の様相を呈してきましたが、「まさか」の展開で仮にルペン氏が勝利となった場合には、右派ポピュリズム(政治思想・姿勢)は政権に手が届くのに、なぜ左派ポピュリズムは及ばないのかがあらためて問われることになりそうです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story