コラム

コロナ禍で医療体制に莫大な予算が投じられる一方、「別の命」は失われ続けた

2023年02月25日(土)18時01分

財政緊縮は死者を増やす

この増加の一因になっているのは、明らかに新型コロナ対策の余波である。人の移動や接触を前提とする産業はひどく打撃を受けた。その結果、経済苦から命を絶つという選択をする人が増えたことは想像に難くない。

公衆衛生、疫学の専門家が経済政策と人の健康について分析した『経済政策で人は死ぬか? 公衆衛生学から見た不況対策』(草思社)などを引けば明らかである。本書の著者、デビッド・スタックラー(公衆衛生の専門家)、サンジェイ・バス(医師、疫学者)の結論は極めてシンプルだ。それは経済政策の失敗もまた人の命に直結するということだ。

特に、不況下で財政緊縮策を取った場合、財政刺激策を取るよりも死者が増大する。自殺のリスクも当然ながら高まる。それだけではない。スタックラーらの分析では、失業そのものだけでなく、失業への不安、家を失いそうになる不安があるだけで健康に影響を及ぼす。自粛と補償をセットにするだけでは、経済活動そのものが停滞することに不安を抱える層は常に残り続けるのだ。

医療にはある程度の補助金が投じられたが、他の産業はどうだったか。もっと経済活動の再開を促し、強い景気の刺激策を講じることで不安は軽減できたはずだが、その動きは弱いままだった。問われなければいけないのは、なぜ彼女たちのSOSは社会に届かなかったのか、である。

彼女たちはインフルエンサーでもなければ、社会的な地位も、政治活動をする圧力団体も持っていない。政治の想像力は、声なき現場にこそ向けられなければいけない。そう強く思うのだ。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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