コラム

プーチン大統領を「侵略の罪」で裁ける? 欧州が団結して設置する「特別法廷」を知るための5つのポイント

2025年05月16日(金)17時30分

ICCは2002年に設立された。冷戦の終了後、ヨーロッパでの二つの大きな紛争──ユーゴスラビア解体に伴う紛争(1990−2001)、コソボ紛争(1998−99)──や、ルワンダ虐殺(1994)などの苦難を経て、一般市民の正義の要求と平和への願いが結集して成立された。

しかしICC設立当初から、「侵略犯罪」については困難にぶちあたっていた。侵略の罪とは「指導者という個人の犯罪」である。このため歴史的に、特に大国の指導者たちの反対が絶えなかった。

ICCはあきらめずに、別の罪の容疑でプーチン大統領に国際逮捕状を発行することを実現させた。ウクライナ人の子供達の違法な強制移送(誘拐)を含む「戦争犯罪」という罪状である。この罪状なら、ICC非加盟国に対してでも可能になりうる。

しかし、侵略犯罪は戦争で侵されるすべての犯罪の根源だから、ICCの空白を埋めるために、侵略犯罪を裁ける特別法廷が必要だという声は侵略の初期から大きかった。

「ロシアの戦争のあらゆる側面は記録されています。ロシアが国連憲章に明白に違反していることは疑う余地を残しません。ロシアの侵略は罰せられないままではいられません」と、カヤ・カラスEU上級代表は言う。

その結果、欧州評議会という欧州46カ国(EU加盟国はすべて加盟)が参加する枠組み内に、特別法廷が設置されることになった。1949年に人権・法の支配・民主主義を保障するために設立された機関で、本部はフランスのストラスブールにある。

ここには欧州人権裁判所があり、死亡したロシアの反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイもここでプーチン体制に対抗するための訴えを起こしていたものだ。ロシアは加盟国だったが、ウクライナ侵攻で糾弾されて、2022年に脱退した。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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