コラム

年内の台湾有事の可能性とは?──中国は必ず併合に動く、問題は日本に備えがないこと

2022年11月01日(火)17時40分

日本は台湾有事への備えはできているのか?...... REUTERS/Tingshu Wang

<2022年あるいは2023年の中国の台湾侵攻の可能性を示唆する報道が話題となっているが、その意味を考える......>

2022年10月21日に配信された「中国、想定より早い台湾侵攻も 来年までの可能性警告―米海軍首脳」と題する時事通信のニュースがSNSなどで話題になった。記事では、マイク・ギルデイ米海軍作戦部長とブリンケン米国務長官の最近の発言を紹介し、2022年あるいは2023年の中国の台湾侵攻の可能性について触れている。

記事本文にははっきりと書いていないが、タイトルからも明らかなように中国の軍事侵攻が早まることを米軍関係者が警告しているように読める。

結論から言うと、いささかミスリードに思える。まず、年内の軍事侵攻の可能性に言及したのはマイク・ギルデイ米海軍作戦部長のみなので、記事にある「相次いでいる」というには当たらない。さらに記事で紹介された米海軍作戦部長の意図は2022年あるいは2023年の軍事侵攻の可能性が高まっていることよりも、その可能性を考えて備えを進めることにあった。ことさら年内や来年の可能性を強調したものではなく、その根拠を示したものでもない。New York Timesなど米大手メディアもマイク・ギルデイ米海軍作戦部長の発言をもって、年内あるいは来年の侵攻の可能性が高まったという報道はしていない。

さらに記事でもうひとつの紹介されていたブリンケン米国務長官の発言では併合が早まる可能性について触れていたのは確かだが、軍事侵攻とは言っていない。

中国が数年後に台湾併合に動く可能性......は以前から広く知られていた

大前提として、記事でも紹介されているように中国が台湾を併合するのは2027年がひとつの目安とする考えはこれまでもあった(もちろん、他の説もある)。2027年は5年後だが、2022年はあと2カ月で終わるので4年強、つまり数年後だ。数年後に中国が台湾を併合する行動に出る可能性はすでに広く知られていた。

軍事行動は、あらかじめ計画されたもの、偶発的なもの、それ以外の要因によるものなどいくつかの原因で起こる。それ以外の要因には指導者が合理的な判断をしなくなる、健康上の理由、内部の情報の問題、政変などさまざまなものがあり、外部からすべての可能性を確認するのは難しい。そのため、中国が数年のうちに台湾併合のための行動に出ること、すでにそのための準備を進めていることなどから台湾有事はいつ起きてもおかしくない状況という認識も最近は共有されていた。最近、それ以外の要因で起こる可能性を示唆する記事などが散見されるようになってきたが、まだ具体的な根拠に乏しい。

現在の問題は軍事侵攻の可能性がわかっていながら準備ができていないことだ。時事通信の記事で紹介されたマイク・ギルデイ米海軍作戦部長の発言も、そのことを協調していた。

時事通信の記事は、明らかな誤りとは言えないが、アメリカから警戒レベルをあげるべき新情報が提供されたわけではない、ということになる。目を向けなければならないのは、これまで危機に対する認識は共有されていたのに備えがないことだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

主要行の決算に注目、政府閉鎖でデータ不足の中=今週

ワールド

中国、レアアース規制報復巡り米を「偽善的」と非難 

ワールド

カタール政府職員が自動車事故で死亡、エジプトで=大

ワールド

米高裁、シカゴでの州兵配備認めず 地裁の一時差し止
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリカを「一人負け」の道に導く...中国は大笑い
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 9
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 10
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story