コラム

安保法案成立後の理性的な議論のために

2015年09月18日(金)16時49分
安保法案成立後の理性的な議論のために

平和を求め、デモという政治参加が行われたのはよいことだったが(9月9日、雨の中のデモ) Issei Kato - REUTERS

民主主義の新しいかたち

 国会のまわりでは、大変なデモが行われています。安保関連法案に私は賛成の立場ですから、それらの人々とは立場は異なりますが、日本が民主主義国であり、デモが法律で認められており、選挙以外の方法で自らの主張を訴えるためにも、このような政治参加が行われていることはよいことだと思います。

 かつてフランスに一年間滞在して、ときどきパリの街中でデモ隊が行進しているのに出くわして、日本でもこういうデモがもっとあればよいのに、と思っていました。確かに2005年には、サルコジ内相の発言に激怒した人々がパリ郊外で暴力的行動をとった事件もありましたが(このときもたまたまパリにいました)、それでもフランスでのデモはおおよそ、平和的で、理性的で、オープンです。成熟した政治参加と政治行動の表出だと思います。

 これまでの日本のデモは、昔安保闘争をやっていた世代の方々が中心となると、どうしても暗くなったり、派閥対立となったり、あるいは特定の政党と結びついていたりすることが多かったと思います。また過激な暴力を記憶している人々もいます。ですが今回のSEALDsは、それらと比べてはるかに開放的で、多くの学生が参加しやすく、特定の政党との結びつきも弱かったので新しい動きだと期待していました。途中からは、多少、路線対立が起きたり、世代間の違和感が表面化したりすることがあったようで、まだ移行期なのかもしれないですね。いずれにせよ、新しい政治参加のかたちが表面化して、多くの方が、理性的に、建設的に、政府を批判することは民主主義社会にとって不可欠だと思いますし、それはまた新しいかたちの民主主義を模索する中で、一つのかたちになりつつあるのかもしれません。

 政府批判は、いつの時代にも必要です。とりわけ民主主義をより良質にしていくためには、良質な批判が不可欠です。良質な批判がなければ、権力は緊張感を失い、堕落します。もしも今回の安保関連法案をめぐって、議会での審議の際に政府の緊張感が不足しており、また国民への説明も不明瞭であったとすれば、それは与党に責任があるのと同時に、そのような緊張感の欠如を許した野党、とりわけ民主党にも大きな責任があると思います。

 三度連続で選挙に敗れて、国民の信頼を失ったのは、自民党に対して十分なオルターナティブを提示できないからであって、実質的な政策論ではなくてパフォーマンスに偏りすぎているからだと思います。その点で、今本当に危機なのは、自民党ではなくて民主党だと思いますし、それは日本政府に中道リベラルの軸を構築する上でも、保守政権に緊張感を持たせる上でも、大きな問題だと思います。

 また私は、国際政治学者として、また外交史家として、平和は望ましく、戦争は避けるべきだと思っています。百年以上前には、日露戦争後に戦争継続を求めるデモが起こり、日比谷焼き討ち事件が起きたのに対して、今は戦争に反対して平和を求めるデモが行われているのは対照的です。戦争継続を求めるデモから、反戦を求めるデモに変わった。これは、一世紀の間に国民の中で平和主義の精神が定着した結果だと思っています。

プロフィール

細谷雄一

慶應義塾大学法学部教授。
1971年生まれ。博士(法学)。専門は国際政治学、イギリス外交史、現代日本外交。世界平和研究所上席研究員、東京財団上席研究員を兼任。安倍晋三政権において、「安全保障と防衛力に関する懇談会」委員、および「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員。国家安全保障局顧問。主著に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社、サントリー学芸賞)、『外交による平和』(有斐閣、櫻田会政治研究奨励賞)、『倫理的な戦争』(慶應義塾大学出版会、読売・吉野作造賞)、『国際秩序』(中公新書)、『歴史認識とは何か』(新潮選書)など。

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