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情報BOX:アゼルが掌握したカラバフ、アルメニア系住民が大挙脱出する理由

2023年09月25日(月)17時53分

 アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフから、アルメニア系住民12万人が退去する見通しとなっている。写真はアルメニアとアゼルバイジャンの越境地点。23日撮影(2023年 ロイター/Irakli Gedenidze)

[モスクワ 24日 ロイター] - アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフから、アルメニア系住民12万人が退去する見通しとなっている。アゼルバイジャンに統合される流れになったナゴルノカラバフで暮らしたくないと思っている上に、そのまま住んでいれば迫害されると懸念しているためだ。ナゴルノカラバフのアルメニア系住民の行政府、アルツァフ共和国の指導部が24日ロイターに明かした。

ナゴルノカラバフを巡る現状は以下の通り。

◎アルメニア系住民が逃げ出す理由

ナゴルノカラバフは国際的にはアゼルバイジャンの一部とみなされてきたが、これまでは人口の大半を占めるアルメニア系住民が実効支配してきた。ただ今月19-20日にかけて、圧倒的に優勢なアゼルバイジャンが軍事行動に出ると、アルツァフ共和国側は停戦と武装解除を受け入れざるを得なくなった。

アルツァフ共和国のシャフラマニャン大統領の顧問を務めるデービッド・ババヤン氏は「わが国民はアゼルバイジャン国民として生活したくない。99.9%がナゴルノカラバフを去ることを望んでいる」と語った。

さらに「アルメニア人と文明世界にとって恥ずかしく不名誉なことに、かわいそうなわが国民は歴史の中に埋もれようとしている」と付け加えた。

アゼルバイジャンは、アルメニア系住民にも権利を保障しつつ、ナゴルノカラバフを統合すると表明。しかしアルメニア系住民は迫害や民族浄化を恐れている。

ソ連崩壊に伴って起きた「第1次ナゴルノカラバフ紛争」では。およそ30万人が犠牲となり、100万人以上が住む場所を失った。

アルツァフ共和国指導部は、今回のアゼルバイジャンの軍事行動で家をなくし、ナゴルノカラバフからの避難を希望する全てのアルメニア系住民は。ロシアの平和維持部隊の護衛でアルメニアに向かうことになると述べた。

◎受け入れ側が抱える問題

いわゆる「ラチン回廊」経由で12万人がアルメニアに移動するとなれば、アルメニアは人道上の危機に直面してもおかしくない。

アルメニアのパシニャン首相は22日、少なくとも4万人に割り当てる生活スペースは確保していると発言した。

パシニャン氏は「ナゴルノカラバフでアルメニア系住民が自宅で生活していくための適切な環境が整えられず、民族浄化を防止する実効的な措置が講じられないとすれば、彼らが自分たちの命とアイデンティティーを守る唯一の方法は脱出だとみなす可能性が高まり続ける」と強調した。

現時点では避難してくる12万人が、冬を控えているにもかかわらず、総人口わずか280万人のアルメニアのどこに住むのかは明確になっていない。

赤十字国際委員会は、はぐれた子供を探していたり、配偶者や恋人と連絡がつかなくなったりした人に登録してもらう作業を始めたとしている。

◎アゼルバイジャンの主張

アゼルバイジャンにとって、ナゴルノカラバフからのアルメニア系住民退去は、この場所を巡る長年の紛争を大きな勝利で終わらせる事態に近づくことを意味するのは間違いない。

アリエフ大統領は、自らの「鉄拳」でアルメニア系住民による独立的なナゴルノカラバフという考えは葬り去られ、ナゴルノカラバフはアゼルバイジャンの一部として「楽園」に変わると言い切った。

◎地域全体への影響

アルメニア系住民の「大移動」は、石油や天然ガスのパイプラインが張り巡らされ、さまざまな民族が混在するカフカス山脈の南側に当たるこの地域の勢力図に変化をもたらしてもおかしくない。

アルメニアのパシニャン首相は、今度の危機で同国が国益を守る際にもはやロシアを頼りにできないと分かったと語った。ただロシアは、アルメニアはロシア以外に友好国がほとんどないと反論している。

多くのアルメニア国民の間では、2020年のナゴルノカラバフを巡る軍事衝突でアゼルバイジャンに敗れた上に、今回も有効な対応ができなかったパシニャン氏の責任を追及する動きが広がり、首都エレバンで辞任要求デモが発生した。

パシニャン氏は、正体不明の勢力がクーデターを企んでおり、ロシアのメディアは情報戦争を仕掛けていると訴えている。

ロシアはアルメニアに軍事基地がある。

一方アルメニアは今月、米軍を招いて合同軍事演習を実施。米国はアゼルバイジャンの軍事行動を批判している。これに対してトルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるものの、アゼルバイジャンを支持する立場だ。

*写真を追加しました。

ロイター
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