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ウクライナのダム破壊、互いに非難応酬 原発冷却水にも影響

2023年06月07日(水)01時21分

ロシアが一方的に「併合」を宣言したウクライナ南部ヘルソン州でカホフカ水力発電所の大型ダムが決壊した。紛争下にある地域で一帯が浸水し、住民が避難を余儀なくされている。写真は洪水で水没した家屋。6日、 ヘルソンで撮影(2023年 ロイター/Ivan Antypenko)

[ヘルソン(ウクライナ) 6日 ロイター] - ロシアが一方的に「併合」を宣言したウクライナ南部ヘルソン州で6日、ドニエプル川に設置されたカホフカ水力発電所の大型ダムが決壊した。紛争下にある地域で一帯が浸水し、住民が避難を余儀なくされている。

ウクライナ側は、ロシアによる爆破であり戦争犯罪だと非難。ゼレンスキー大統領はメッセージングアプリ「テレグラム」に「ロシアのテロリストによる仕業だ」と投稿した。

一方、ロシア側は「ウクライナ側の意図的な破壊行為であることは間違いないと公式に宣言する」(ロシア大統領府のペスコフ報道官)などと全面的に否定。ロシアのショイグ国防相も、ウクライナ軍がロシア軍による攻撃を阻止すると同時に部隊や装備を再配置するために爆破したとの見解を示している。

ロシア側に任命された当局者の中には、ダムは自然に決壊したという声もあった。

双方ともにいずれの責任かを即座に明らかにすることはできていない。ジュネーブ条約では、民間人に危険が及ぶためダムは紛争時の標的にしてはならないと定められている。

高さ30メートル、長さ3.2キロのこのダムは、カホフカ水力発電所の一部として旧ソ連時代の1956年にドニエプル川に建設された。

下流にある地域では、桟橋や道路が水没するなどしており、住民が避難を急いでいる。ロシアが支配する南岸は特に低地であるため被害を受けやすい状況となっている。ゼレンスキー大統領によると、浸水区域には約80の集落が存在するという。

ダム決壊は、ウクライナ軍がロシアからの占領地奪還に向けた反転攻勢の準備を行っていた矢先の出来事だった。紛争地域の中心で新たな人道危機につながる災害が発生し、前線の状況が一変する可能性もあるとの懸念が浮上している。

従前から、ウクライナもロシアも互いに相手がダム破壊を画策していると非難してきた。

<ザポロジエ原発やクリミアにも給水>

このダムは18立法キロメートルの貯水池を持ち、2014年にロシアに併合されたクリミア半島や、同じくロシアの支配下にあるザポロジエ原子力発電所にも水を供給している。

国連の核監視団は、この貯水池が枯渇しても、別の貯水池から「数カ月」は十分な冷却水を確保できるはずとの見解を示している。

ロシア国営タス通信によると、今のところ同原発に「重大な危険」はない。

ロシアに任命されたクリミアのセルゲイ・アクシオノフ知事は、黒海半島に淡水を運ぶ運河の水位が低下する恐れがあると指摘した。

<各国から懸念や非難の声>

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「ウクライナにおけるロシアの残虐性を示す、とんでもない行為だ」と強く非難した。

国連のグテレス事務総長は「ロシアによるウクライナ侵攻のもう一つの壊滅的な結果だ。民間人や重要な民間インフラに対する攻撃は止めなければならない。われわれは、説明責任を果たし国際人道法を尊重するために行動しなければならない」と述べた。

米国やドイツ、カナダなど各国からも懸念の声が上がっている。

ロイター
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