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アングル:OPEC、原油20ドル台の懸念にも方針変更の気配なし

2015年11月27日(金)13時46分

 11月27日、石油輸出国機構(OPEC)は、政策立案の中心的役割を担うサウジアラビアに財政的苦難が訪れても積極的生産を維持する構えだ。弱小加盟国は原油相場が20ドル台までさらに下落することを恐れ、警戒感を強めている。写真は原油採掘現場、2014年9月撮影(2015年 ロイター/Lucy Nicholson)

[ロンドン/ドバイ 25日 ロイター] - 石油輸出国機構(OPEC)は、政策立案の中心的役割を担うサウジアラビアに財政的苦難が訪れても積極的生産を維持する構えだ。弱小加盟国は原油相場が20ドル台までさらに下落することを恐れ、警戒感を強めている。

ロシアを筆頭にOPEC非加盟の主要産油国が協調して減産に参加しない限り、何ら政策の方向転換は実現しないとみられている。ロシアは半年に一度のOPEC総会に先立ち、OPECの石油相らと会談を行うが、価格下落を食い止めるためにロシアが助けの手を差し伸べる可能性は小さい。

あるOPEC加盟主要産油国の代表は「非加盟国が協力を申し出ない限り、変化は起きない。OPEC単独での減産はしない」と話した。

OPECが6月にウィーンで開いた総会で、サウジのヌアイミ石油鉱物資源相や他の富裕産油国の代表はほとんど喜びを隠せない状態だった。

増産によって台頭する競合サプライヤーから市場シェアを守るという昨年11月のOPECの歴史的決定は効果を上げている。原油価格が65ドル近辺で推移する中でOPECはこのように宣言した。しかし、6カ月後の現在は45ドルまで下落した。昨年中旬は115ドルまで上昇していた。

現在、加盟国の間では、21世紀への変わり目に経験した1バレル=20ドル時代への逆戻りが語られるようになった。イランに対する国際的な経済制裁が年内に解除されることに同国が自信を示していることが主な理由だ。

<強まる批判>

ロシアは12月4日にウィーンで開くOPEC総会に先立ち、OPECと非公式の協議に参加するが、ロシアが現在のスタンスを変更し、OPECに協力して減産に応じる可能性はほとんどないと関係者は指摘する。

OPECの6月の総会で政策維持を決めた際、明らかに大きな反対はなかった。しかし、今回はOPECのベネズエラなどのタカ派加盟国または弱小国からの反発が目に見えるようになり、同時に批判も強まっている。

別の加盟国代表は「サウジは減産を望んでおらず、何かが起きるとは思わない。彼らは自ら墓穴を掘っており、他の加盟国にも災いを招いている」 と突き放した。

OPEC内の亀裂の深さを示す一例として、OPECは11月に長期戦略の見直しで合意に至ることができなかった。ロイターが把握したOPEC文書の草案によると、イランやアルジェリアはOPECが価格防衛を再開し、加盟国に対する割当制を通じて供給を管理すべきだと主張した。

しかし、こうした対策を支持するOPEC内部の人々ですら、供給管理で合意できる可能性は低いとみており、前出の加盟国代表は「OPECは生産比率の管理に向けた合意に達せず、サウジは現状の戦略を譲らないだろう。割当制には到達しない」と述べた。

OPECは2012年に全体で日量3000万バレルの生産目標を設定した際に割当制を廃止した。ことしはこの上限を常時上回っており、これはサウジとイラクが過去最高の生産量となったことが要因だ。OPECの統計によると、10月の生産は日量3138万バレルに達した。

代表者らによると、日量生産90万バレルのインドネシアが7年ぶりに再加盟するのを機に、上限を3100万バレルに引き上げる検討が行われる可能性がある。

来年の大きな不確定要素は、イランにどの程度の急速な余剰生産が可能かどうかだ。OPEC加盟の湾岸諸国は日量10万─20万バレルを予想するが、イランは制裁解除から数カ月以内に50万バレルの増産が可能としている。

ベネズエラのエウロヒオ・デル・ピノ石油鉱業相は22日 「イランは制裁解除後にただちに増産すると発表しており、我々は対応を迫られる。OPECが価格戦争に突入することは認められない。我々は市場を安定させる必要がある」と語った。

来年OPECが方針変更できなかった場合、原油相場がどこまで下落するかという質問に対し、ピノ氏は「20ドル台半ば」と答えた。

ゴールドマン・サックスは、世界的な過剰供給やドル高、中国の景気減速を理由に今年の原油価格が20ドルを下回る可能性があるとしていた。

大半のアナリストは、今の世界の大国との核開発抑制合意の下で、イランに対する制裁が来年春までに解除されるかどうかは疑わしいが、原油生産はいずれ増加に転じるとみている。

<苦悩するサウジ>

原油価格の崩壊によってOPECは部分的に目標を達成したといえる。世界の需要は拡大し、生産コストが比較的高い米国のシェールオイルの供給の伸びは抑制されたからだ。来年の非加盟国の供給量も、苦戦する生産者側が設備投資を削減しているため、ほぼ10年ぶりに減少する見通しだ。

しかし、未だに世界では必要以上の原油が生産され続けている。ロシアの生産量は予想外に過去最高を更新し、世界の原油在庫は膨れ上がっている。

OPECの政策を主導するサウジの財政状況すらも一段と苦境に置かれている。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によると、サウジの今年の財政赤字の国内総生産(GDP)比は前年の1.5%から16%に急上昇する見通しだ。

サウジは今年の財政赤字は管理可能だと説明している。しかし、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは23日、サウジに対する圧力は非常に大きいため、ドルペッグ制を採用している通貨リヤルの切り下げ、または減産を迫られるとの見方を示した。

こうした減産は多くの競合産油国から戦略の失敗と解釈される方針の一大転換を意味する可能性がある。逆に増産による長期的な見返りを期待するやり方は、サウジだけでなくカタール、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートの裕福な湾岸諸国にとって依然として選ぶべき道のように思われる。

石油商社ガンボーの調査責任者デビッド・ファイフ氏は「現時点でサウジが市場シェア志向の戦略を転換しようとする兆候は何ら見られない。サウジの戦略の耐久力は今後12─18カ月間のイラン、イラク、リビアによる増産によって試されるだろう」と話している。

(Alex Lawler and Rania El Gamal記者)

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