ニュース速報

ビジネス

焦点:前途多難の「メイド・イン・アメリカ」

2017年04月23日(日)11時10分

4月17日、ミニバイクなどを製造するモンスター・モトは昨年、組み立て工場を中国から米ルイジアナ州ラストンへと移転。同社が製品に「メイド・イン・アメリカ」と表示できるまでには、長い道のりがある。写真はルイジアナ州ラストンで1月撮影 (2017年 ロイター/Nick Carey)

Nick Carey

[ラストン(米ルイジアナ州) 17日 ロイター] - ミニバイクやゴーカートを製造するモンスター・モトは昨年、組み立て工場を中国から米ルイジアナ州ラストンへと移転し、米国生産に踏み切るという大きな賭けに出た。

だが、同社が製品に「メイド・イン・アメリカ」と表示できるようになるまでには、なお長い道のりを要する。 

過去20年で米国は国内工場のほぼ4分の1を失っており、同社のバイクに使われているフレームやエンジン部品も、数年前にサプライチェーンの移転先となった中国でなければ調達できない。

「今は、アメリカ国内で部品を調達するすべがない」。モンスター・モトのAlex Keechle最高経営責任者(CEO)は、同社の組み立て工場を案内しながらそう語った。「しかし、ここに旗を立てることで、サプライヤーも後に続くと信じている」

モンスター・モトの経験は、トランプ大統領と共に、アメリカの製造業を再建しようと臨む米国企業が直面する障害の一例にすぎない。

たとえば、米自動車メーカーとそのサプライヤーは、国外工場にすでに何十億ドルも投資している。仮にトランプ大統領が提案する輸入品への「国境税」が法制化されれば、何千という米国製部品を調達するために、高額で時間のかかる移行作業に向き合わなければならない。

2年がかりで工場用地を見つけ、州や地方自治体と交渉したモンスター・モトのように、再び生産拠点を米国に戻した企業は、移転による需要により、地元にサプライ・チェーンが構築されることを期待している。

米国に生産拠点を持つサプライヤーを見つけることは、現時点で、「われわれのサプライヤー基盤における、最も難しい挑戦だ」と米小売り大手ウォルマート・ストアーズのシンディー・マーシグリオ国内製造・調達担当副社長は語る。

米国製品に対する消費需要の高まりを受け、ウォルマートはモンスター・モトを含めたいくつかの米社と提携し、2023年までに米国製品調達を2500億ドル(約27兆2000億円)増やすことを目指している。

ただ、米国人の愛国的な消費習慣にも、価格面での限界があることが彼らの経験から明らかとなった。

モンスター・モトの場合、バイクを1台249─749ドルで販売しているが、価格に敏感な客がより安い中国製のライバル製品に流れることを恐れ、値上げには踏み切れないと同社のCEOは語る。

「箱に『メイド・イン・アメリカ』と書いてあれば、消費者が(値上げの)フリーパスをくれる訳ではない」と同CEOは言う。「価格競争力を維持しなければならない」

工場の労働コストに目を光らせることは、米国の製造業者にもコントロールできることだ。彼らは、組み立てラインで働く、主に低スキルな労働者をロボットに置き換えることが、米国で生産しつつ、コスト競争力を保ち、商業的に成功する唯一の道だと考えている。

これはトランプ氏が大統領選で勝つために使った説明とは、真逆の傾向だ。

大統領就任後も、トランプ氏は過ぎ去ったアメリカ製造業の栄光を復活させ、数百万の雇用を再創出する公約を掲げ続けている。大統領は先月31日、「アメリカの繁栄泥棒」に終止符を打つため、貿易ルールを悪用する国の取り締まりを強化するよう、政権に指示した。

だがモンスター・モトのような企業の製造現場では、状況はより複雑だ。

「まるで人々は、製造拠点を地球上のどこかからプラグの様に引き抜き、米国に差し込んでも、万事支障ないと考えているかのようだ」。貨物輸送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のデビッド・アブニーCEOはそう語る。

UPSは、モンスター・モトが中国製部品をラストンに輸送できるようサプライ・チェーンの再構築を手助けした。「(製造拠点の米国移転は)すぐに実現できることではない」

トランプ政権による製造業の国内回帰に向けた取り組みは、規制緩和と製造業労働者に新たなスキルを学ばせるプログラムの拡充に重点を置く、とホワイトハウスの高官は説明する。

「米国に回帰する製造業の雇用が、前に出て行ったものと全く同じにはならないだろうことは承知している」と同高官は語る。「われわれは、アメリカの労働者が対応できるよう手段を取っている」

<ロボットを再び偉大に>

ラストンにあるモンスター・モトの広い倉庫の様な工場では、数十人の作業員が、短いが複雑な組み立てラインで働き、箱詰めされた輸入部品をバイクに組み立てている。

ビリー・マハフイという名前のひげの長い作業員が、一人でバイクのエンジンをふかしてエンジンやブレーキのテストを行い、その後、数人の作業員が完成したバイクを「米国組み立て」と書かれた箱に入れていく。

その箱書きの効果もあり、ウォルマートなどの大口顧客からの需要が足元で拡大している。同社は、生産を8万台に倍増させ、時給13─15ドルで働く組み立て工場の従業員数を、2017年の約40人から、100人へ増やす予定だ。

モンスター・モトが、アメリカで最初に製造できそうな部品は、バイクやゴーカート用の黒色の金属フレームだ。だがそのために溶接工を雇えばコストがかかりすぎるため、生産を自動化する必要がある。

「コスト構造をぶち壊すことはできない。米国で(フレーム生産を)実現する唯一の方法はロボットだ」と、モンスター・モトのリック・スカール最高執行責任者(COO)は言う。

同じ理屈は、米自動車部品のデルファイ・オートモティブのような、より大きなメーカーにもあてはまる。同社のジョー・マッサーロ最高財務責任者(CFO)は2月、アナリストに対し、同社の時給払い労働者の90%が「コスト的に最善な国にいる」と指摘。

メキシコから米国への生産拠点の移転について質問されると、マッサーロCFOは、貿易ルールへの改変次第で、「労働条件の格差を考えれば、(米国生産は)オートメーション化された製造作業にならざるを得ない」と述べた。

こうした傾向はすでに、ワシントンを拠点とする経済政策研究所のデータにも表れている。同研究所のシニアエコノミスト、ロバート・スコット氏によると、米国は1997年から2014年にかけて、全体の23.5%にあたる8万5000の工場を失っただけではなく、1工場当たりの従業員の平均人数も14%減少して44人となった。

スコット氏によると、従業員の減少はオートメーション化によるところが大きい。

「すべての企業にとって経済的に合理的であり、この国ではさらにオートメーション化が進むだろう。嘆き悲しんでも、状況は変わらない」と、ボストン・コンサルティングのマネージング・ディレクター、ハル・サーキン氏は話す。

生産をオートメーション化すれば、必要な労働者数は減るが、ロボットのプログラマーやオペレーターなど、よりスキルの高い労働者が必要になると製造各社は語る。全米製造業協会(NAM)の推定では、こうした「スキル・ギャップ」により、1200万人以上を雇用する業界内で、35万の欠員が生まれているという。

ラストンのロニー・ウォーカー市長は、同市の経済の多様化を狙っており、モンスター・モトにリース保証を行うことで、その成功に賭けている。組み立て工場周辺にサプライヤーが移転することを見込んでいるからだ。

「製造業を取り戻すには時間がかかるだろうか。もちろんだ」と、ウォーカー市長は言う。「しかしどこかで始めなければならない」

(翻訳:山口香子 編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中