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焦点:各国当局の危機対応力に市場は疑念、リーダー不在で対応後手

1月7日、年始から市場の動揺が止まらない。写真は都内で2012年5年撮影(2016年 ロイター/Yuriko Nakao)
[東京 7日 ロイター] - 年始から市場の動揺が止まらない。中国不安や中東リスク、北朝鮮の核実験など影響が読み切れない不透明要因が続発しているためだが、不安心理を増幅させている背景には、グローバル危機に対峙できる強いリーダーが世界に見当たらないことがある。危機発生時に各国当局の初動が遅れれば、世界的な株価暴落や円急騰などの混乱に歯止めがかからなくなるおそれもある。
<米議会は機能不全、独では「母」の求心力低下>
市場の懸念の根底には、世界のリーダーを自負するはずの米国が選挙モード一色で、政治空白が起こりやすい状況がある。選挙選を戦う候補者の言動は有権者アピールのため内政へ向かいやすく、現職は任期最後の1年を政治的な遺産作りに充てる。世界経済事情など対外的な問題意識は手薄になりやすい時期だ。
キューバとの国交再開やイラン核合意などに熱心なオバマ大統領の支持率は、米世論調査会社ギャラップの最新調査で45%。現在52%の不支持率を下回り続ける姿はここ2年ほぼ変化がない。議会もレームダック化した大統領にわざわざ挑む必要なし、と政策論議が起こりづらい。そうした状況で仮に金融危機的な事態が発生しても「ただでさえ賛否の割れやすい銀行救済などの緊急措置を、議会で即時合意することは極めて難しい」(国際金融筋)状況だ。
欧州に目を転じても事態は深刻。ギリシャ問題など欧州が瓦解しかけた債務危機で奔走、域内を二分する難しい議論をまとめ上げたメルケル独首相の求心力が、最近急速に低下している。
債務処理で南欧諸国に甘すぎると欧州懐疑派を勢いづかせたうえ、移民受け入れに寛容な姿勢には政府与党内からも否定的な声が上がり始める始末。この状況で仮に、独国内で過激派が攻撃を仕掛けるような事態が発生すれば、その難局を乗り切るのは容易ではない。
経済的な火種も少なくない。間接金融が主流の欧州では、成長率が伸びなければ南欧諸国を中心に銀行の不良債権リスクが水面下で膨らみやすい。政治不安を抱えるトルコや東欧諸国のリスクも懸念材料だ。メルケル首相は今年も、利害が激しく対立する域内を再び協調させる強いリーダーシップを保つことができるだろうか。
<ECBが示唆した「Gゼロ」の衝撃>
翻って日本。海外投資家の間で安倍内閣は主要国で最も安定した政権との評価が一般的だが、欧米でリーマン級のグローバル危機が再び発生した際に、震源から遠い日本がリーダーシップを発揮し、即座にG7やG20をまとめ上げるのは現実的に難しい。
安倍政権に対する参加者の期待は引き続き高く、今年の衆参ダブル選の可能性について「海外勢から問い合わせがくる」(邦銀関係者)ほど。だが、関心の的は4年目を迎えたアベノミクスの帰すうという内政が専ら。為替市場ではリスク回避時に円が買われるが、その理由は安倍政権のリスク管理能力に対する信頼ではなく、高い流動性や自由取引が可能という実務が主導するものだ。
当局者間の合意形成がうまくいかなかった場合、市場に大きな混乱をもたらすリスクを体現したのが、昨年12月の欧州中央銀行(ECB)理事会。大規模緩和に前向きだったドラギ総裁がワイトマン独連銀総裁ら慎重派を切り崩すことができず、結果発表後に為替市場でユーロが暴騰。量的緩和で調達通貨となり各国資産市場へ流れ込んでいたマネーが一気に逆流し、年末の市場に強烈な衝撃を与えた。
「ECB後の大混乱で大損を抱えてしまい、本来大一番のはずだった米利上げで勝負できなくなってしまった参加者は少なくない」。ある外銀関係者は、米連邦準備理事会(FRB)の9年半ぶりの利上げがスムーズに市場で受け入れられた背景を自嘲気味にこう語る。
今年も世界経済の前にはリスクの山が立ちはだかる。米利上げに伴う激しい資本移動の影響、商品安と資源国の苦境、中国景気減速、欧州の難民問題、新興国の政治・経済リスク──。過剰な流動性があふれかえる現在の金融市場はいったん荒れ始めると、パニック的様相となることは昨夏の中国株に限らず、この年始の動きが証明済み。
「Gゼロリスク」。強いリーダーシップが存在しないという今年のリスク要因のひとつを、ヘッジファンド関係者はこう警戒する。「危機時に混乱が拡大しやすいのはもちろんだが、平時からボラティリティが高まりやすくなるかもしれない」。
(基太村真司 編集:橋本浩)