コラム

原発処理水の海洋放出問題に妙案あり...問題の本質はゴジラだ

2023年06月28日(水)12時30分
福島第一原発の処理水を保管するタンク

福島第一原発の処理水を保管するタンクは「満杯」に近い KIM KYUNG-HOON–REUTERS

<2083年まで待てば、安全に処理水を海に放出できるはずだ>

問題の本質はゴジラだ。1954年公開の映画『ゴジラ』で志村喬が演じた山根恭平博士は、度重なる水爆実験が文明社会を脅かす怪物を目覚めさせたと指摘した。

日本の当局者はゴジラを何とか止めようとしたが、この怪物はあらゆるものを破壊して暴れ続けた。ゴジラ──それは原子力を操って神を演じようとした人間の傲慢に対する自然の報復だった。

2011年、ゴジラは東日本大震災の地震と津波という形で復活し、福島第一原子力発電所に甚大な被害をもたらした。その結果、少なくとも500平方キロの土壌が汚染され、約16万人が避難を余儀なくされ、福島第一原発は廃炉が決定。日本政府は337平方キロの帰還困難区域を設置した。

科学の力を過信した人間のおごりがもたらした結果から逃れるすべはない。あれから12年、日本政府と東京電力は、保管タンクにたまった原発の処理水(放射性汚染水を浄化処理した)130万トンの海洋放出を数カ月以内に開始する見通しだと表明した。

保管タンクは間もなく満杯になるが、タンクを増やすスペースはほとんどない上に、1日100トン以上の汚染水が新たに発生しているという。当局者によれば、太平洋に放出される処理水に含まれる主要な放射性同位元素トリチウムの半減期は12.3年と比較的短く、その濃度はWHO(世界保健機関)が定める安全な飲料水の基準の7分の1にすぎない。

とはいえ、福島原発事故に関する決断は簡単でも明快でもない。一般的な科学的知識では、処理水を数十年かけてゆっくり放出すれば、海と人間の健康に対するリスクを最小限に抑えられるという日本政府の主張は正しい。海洋放出された処理水はすぐに拡散され、自然界に存在する放射線レベル以下の濃度まで低下する。

だが日本政府の計画に対しては、世界中のさまざまな国や科学者、市民が強く反対し、その論拠となる分析や事実を列挙している。中国政府は日本の海洋放出計画について、全人類をリスクにさらす一方的で無責任な行為と非難。日本は海を下水代わりに使っていると糾弾した。漁業関係者は、海洋放出が行われれば科学的事実はどうあれ、誰も「汚染された」魚を買わなくなり、漁業は壊滅すると警告する。

アメリカ政府は慎重な支持を表明しているが、全米海洋研究所協会は「日本の主張を裏付ける適切で正確な科学的データが不足している」として反対の立場だ。

もっとも、ゴジラは個別の災害がもたらした結果では決してない。この大怪獣は人間が生み出した「恐怖」の産物だ。同様に、福島第一原発の処理水問題で問われているのは「事実」ではない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story