コラム

南アフリカの奇跡、シヤ・コリシが教えてくれたこと

2019年11月07日(木)17時45分

ラグビーW杯2019日本大会で優勝を果たした南ア代表とキャプテン、コリシ(中央)と多様な人種のチームメイト Matthew Childs-REUTERS

<南ア代表のW杯優勝を牽引した黒人初のキャプテン、シヤ・コリシの不屈の物語は、南アにとっても日本にとってもお手本になる>

ラグビー南アフリカ代表初の黒人キャプテン、6番のシヤ・コリシは国民的ヒーローになりました。

スプリングボック(南アを象徴するカモシカの一種)の6番はそもそも伝説的な背番号です。

アパルトヘイト(人種隔離政策)廃止後の1995年、南アで初めてに開催された国際的スポーツ・イベントがラグビーワールドカップ(W杯)で、決勝の大舞台で地元チームの優勝を祝った時にネルソン・マンデラが着ていたユニフォームが6番だったのです。

それから約15年、その遺産を受け継いだコリシ選手はマンデラに負けない波乱万丈な人生で知られます。

アパルトヘイトが廃止された1991年に生まれたコリシ選手は南部のスラム出身で、母親が16歳のときの子どもだったため、祖母の家で育ちました。

食べ物もなければオモチャもない、昼に学校の食堂でもらうピーナッツペーストのトーストが1日の栄養のすべてでした。家では硬い床に寝て、学校が終わればゴミ収集場のタイヤとレンガで遊ぶしかありませんでした。

10代前半で自分を見守ってくれていた祖母が倒れ、突然亡くなります。死体にも初めて触れ、人生はどこまでも冷酷でした。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を連想させる寂しい物語、しかしコリシの希望は自分の想像力から生まれる夢にではなく、自身の身体能力にありました。

近所の黒人ユース・ラグビー・チームとの練習に打ち込み、12歳に参加した草大会で奇跡的に街の高級私立中学校のラグビー関係者にスカウトされ、奨学金まで得ます。白人の子どもに囲まれ、ラグビーに打ち込み、学校のチームのリーダーになります。

それ以降、ラグビー選手としての上達と出世は止まるところを知りませんでした。

目立たない重労働をこなす

6番の選手は守備に徹する三列目のフランカーです。派手なプレーで目立つこともなく、80分間ひたすら対戦相手をタックルし、走り、スクラムの中でも、選手の塊の中でも、重労働を求められます。W杯日本大会でも彼はまさに影武者となり、MVPに選ばれた7番のデュ・トイとともに決勝のイングランドのすべてのプランを潰す大活躍を見せました。

白人学校に通うまで英語ができなかったコリシ選手、試合後のインタビューでは世界中のスポーツファンに第二の言葉である英語で堂々と母国のプライドを語りました。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story