コラム

オリンピック開催を日本は生かせるか(フランスは生かしています)

2019年03月20日(水)18時22分

東京・晴海埠頭近くで建設中、選手村の巨大ビル群 Issei Kato-REUTERS

<東京五輪の次に五輪を開催するパリではすでに、高速道路がジョギングコースに変わったり、小さな公園の遊具を大人も子供も使えるようアップデートしている。東京の五輪はどんなレガシーを残すのだろうか>

2月いっぱい、私はずっとフランスに帰っていました。平均気温15度の暖かいパリはすでに春のようでした。驚いたのは、夜遅い時間に一生懸命ランニングをするパリ市民の姿です。東京の皇居状態、いやそれ以上かもしれません 。夜中に起き上がるゾンビ族のようでした。大グループで走り、平日にもかかわらず23時頃まで走っているのです。

20年ほど前までは、パリでランニングする人などほとんど見かけたことがありませんでした。治安の問題ではなく、習慣の問題でした。しかしパリのヒダルゴ市長が昨年の10月にセーヌ川沿いの首都高速道路を歩行者天国に変えてから、パリはさながら運動公園のようになりつつあります。FIFAワールドカップで優勝したことや、東京五輪の次の五輪がパリで開催されることもパリジャンたちのモチベ―ションになっているのでしょう。

アメリカ人のようには運動できないフランス人

渋滞が増えるため自動車通勤者は歩行者天国に反対ですが、散歩やランニングを好む人は大喜びです。東京五輪の一つのレガシーは都内の運動人口を増やすことなので、パリ市民がランニングで盛り上がっている光景は参考になりました。東京も思い切ってお台場にスポーツ愛好家のためのハーフ・マラソン・コースを作ったり、週末は完全歩行者天国にしたりする日が来るのでしょうか。五輪開催国にとって五輪は、経済効果云々を語る前に、何よりその国の運動文化を変えるための絶好のチャンスなのです。日本には日本人の国民性や時代のニーズに会った変え方、フランスにはフランス人に合った変え方があります。

フランスはスポーツの強豪国(サッカー、テニス、ラグビー、冬季五輪など)とはいえ、アメリカほど国民は運動に夢中ではありません。アメリカ人は平日でも朝6時からジムに通い、フィットネスは生活の一部なのです。美容のために運動をするフランス女性も近年増えましたが、欧州の女性は男性にナイスボディよりも精神力や知性を求めますから、男性は必ずしも肉体を磨かないのです。

それもあって、フランス人全般にとってスポーツはあくまでも趣味であり生活の一部にはなりません。ジムのチェーン店も東京ほど多くはありません。ランチタイムにジムに通う発想はないのです。一番の問題は時間です。フランス人は日本人ほど働きませんが、平日でも文化を思いっきり楽しむのです(映画、音楽、アート、旅、ワインなど)。スポーツを本格的に採り入れる時間はありません。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story