コラム

地球の自転で発電する方法が実証される──「究極のクリーンエネルギー」実用化の可能性は?

2025年04月04日(金)07時10分

さらに、シリンダーの位置を180度回転させると、この電圧はプラスとマイナスが反転し、90度回転させる(地磁気と平行方向にする)とゼロになりました。また、中空ではない中の詰まったシリンダーを用いた場合も、電圧はほぼゼロを示しました。この事実は、測定された電圧が自転によって生成されたことを示唆していると言います。

私たちに馴染み深い筒型のアルカリ乾電池の電圧は1.5ボルトです。つまり、この実験で得られた電圧は乾電池の100万分の1というわずかなものです。ただ、多数の中空シリンダーを直列に並べたり、導体の素材を吟味したりすることで、もっと多くの自転エネルギーを取り出すことは可能かもしれません。

自転運動から電気を得られれば、その分、自転の回転は弱まります。「自転からエネルギーを奪い過ぎたら、自転が止まってしまう。かえって地球環境に多大な悪影響を与えるのではないか」と心配する人も多いかもしれません。

研究チームは「私たちの計算では、何らかの方法で自転エネルギーから人類の文明に使うすべての電気を得られるようになったとしても、地球の自転速度は10年あたりで1ミリ秒未満しか遅くならない」と話し、「そもそも今でも、地球の1日の長さは10年あたりで数ミリ秒程度の変動が見られている」と解説しています。これは、地球内部コアの固体鉄が地球全体とは独立して回転していることや、月の影響が原因となっているそうです。

わずか数マイクロボルト程度とはいえ、「地球が自転しているかぎり、燃料を使わなくても継続的に電気が得られる」とは、まるでSFのような話です。ただ、今回の実験が本当に自転エネルギーを取り出したのかについては、「他の研究チームによる検証が必要だ」と研究者たちは慎重な態度を取っています。また、たとえ追試で実験結果が正しいことが分かったとしても、実用化にはかなり時間がかかりそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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