コラム

大成長の甘味料市場 日本における「甘味」の歴史とリスク

2023年03月07日(火)13時30分
甘味料のイメージ

砂糖の消費量は約半世紀で半分に減少(写真はイメージです) chokja-iStock

<「太る」「糖尿病になる」と砂糖がマイナス面を取り沙汰される一方、虫歯になりにくかったり、カロリーが低いことで需要が高まっている甘味料。一般的に「安全」と考えられる天然由来の甘味料だが、リスクを示唆する研究も>

砂糖の代わりに使われる甘味料は、ダイエットや糖質制限の味方としてカロリーゼロ飲料などに使われています。近年は甘味料自体がスーパーなどで入手しやすくなり、毎日の料理への利用も身近になっています。

日本では、終戦直後に使われていた人工甘味料が後に毒性が認められたことや、風味が砂糖とかけ離れていることなどから、敬遠されていた時期もありました。けれど、甘味料のカロリーの低さや、砂糖の過剰摂取による生活習慣病や精神疾患への悪影響などがクローズアップされるようになると、甘味料の需要は増加していきました。

世界の低カロリー甘味料市場は2021年から26年の間は4.3%の年平均成長率で伸長すると予測されています(2021年IMARC Services Private Limited調べ)。とりわけ、天然由来の甘味料市場は急成長しており、21年の市場規模は世界で31億6000万米ドルにもなりました。28年には59億3000万米ドルに達するという試算もあります(Stratistics Market Research Consulting調べ)。

ただし「自然にある物質だから安全」と考えられがちな天然甘味料にも、リスクを示唆する研究はあります。

最近では、米クリーブランドクリニック・ラーナー調査研究所のスタンリー・ヘイゼン氏らのチームが、「天然甘味料エリスリトールの摂取は、脳卒中や心臓発作のリスクを高める」という研究成果を発表しました。詳細は、2月27日付の米医学系科学誌「Nature Medicine」に掲載されました。

甘味料の歴史とリスクについて概観してみましょう。

砂糖が庶民の口に届くのは江戸時代

「菓子」と聞けば、チョコレートや饅頭などの「甘いもの」をイメージする人は多いでしょう。現在では、甘いものだけでなく、ポテトチップスなども含めた「食事以外の嗜好食品」を示すことが一般的です。

けれど元来、「菓子」という言葉が示すものは果物でした。『日葡辞書』(1603年)には、「Quaxi(クワシ)」という単語が収録され、「果実、特に食後の果物を言う」と説明されています。日本料理のコースの最後に登場する果物を「水菓子」と呼ぶのはその名残です。

果物以外を菓子と呼ぶようになる契機は、奈良時代に唐から「唐菓子(からくだもの)」がもたらされたことです。多くのバリエーションがありましたが、米粉を練ったものに甘みを付け、油で揚げたものが多かったようです。

和菓子の素地となった唐菓子が、『源氏物語』にも登場する「椿餅」です。甘葛で甘味を付けた餅を椿の葉で包んだもので、物語では平安貴族たちが蹴鞠をした後に提供されました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ECB、1630億ドルのウクライナ融資支援を拒否=

ワールド

米ワシントンの州兵銃撃、1人が呼びかけに反応 なお

ビジネス

アングル:ウクライナ、グーグルと独自AIシステム開

ワールド

韓国大統領、クーパン情報流出で企業の罰則強化を要求
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story