コラム

日本は北京五輪ボイコットの先兵になる(はず)

2021年08月18日(水)15時03分

健全な日本と対照的なのは、皮肉にも過去に日本に侵略された中国だ。戦後の長い道のりを経た日本が人権と民主主義的価値観を尊重する平和国家に成長したのに対し、中国はその独裁的で他民族を差別する古い体制と思想から脱却できないでいる。

昨年夏には、同国の「模範的な自治区」とされる内モンゴルでモンゴル人の母語教育の権利を剝奪して同化政策を強化した。イギリスから返還された後も50年間は「高度な自治」を保障すると国際社会と交わした香港をめぐる約束も簡単に破り、国家安全維持法を導入して苛烈な弾圧を緩めようとはしない。

極め付きは新疆ウイグル自治区だ。ジェノサイド(集団虐殺)が横行している、と欧米諸国は当事者の証言と独自調査に基づき断定している。日本国民も女性差別は決して許されるものではないと認識しているので、国民の代表である女性国会議員たちはウイグル人女性に温かい手を差し伸べるだろう。

中国政府は十数年も前からウイグル人女性たちに対して不妊手術を施し、出産をコントロールしてきた。100万人も収容した施設では性的な虐待が横行している、と脱出した多くの女性たちが証言している。

東京五輪の開催で過去のどの時代よりも正義と人道主義思想が確立されたのだから、日本は政財界を問わずに、北京の冬季五輪ボイコットの先頭に立つだろうと国際社会から期待されている。日本人自身もその責任の重大さが分かっているに違いない。自国には厳しく、中国には弱いと見られたくないだろうから。

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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