コラム

シリア新政権の治安組織に潜むISシンパ──パルミラ米国人殺害が示した統治の脆弱性

2025年12月28日(日)13時04分
シリア新政権の治安組織に潜むISシンパ──パルミラ米国人殺害が示した統治の脆弱性

古代の遺跡。パルミラ・シリア Mantvis -shutterstock-

<シリア中部パルミラでの米国人殺害事件は、シリア新政権の治安組織にISシンパが浸透する実態を露呈。ISにとっての「中枢」シリアの不安定化は世界各地のネットワークを再活性化させる>

2025年12月13日、シリア中部パルミラ近郊の歴史的景観を背景に発生した米国人3名の殺害事件は、単なる一過性のテロ攻撃として片付けるべきではない。この悲劇において最も深刻な懸念を投げかけているのは、実行犯が新生シリアの治安部隊に身を置いていたという冷厳な事実である。


バッシャール・アル=アサド政権の崩壊からちょうど1年、アフメド・アルシャラ大統領(旧名アブ・ムハンマド・アル=ジャウラニ)率いる新体制へと移行したシリアにとって、自国の安全保障を担うべき軍や警察の中に過激派組織「イスラム国(IS)」のシンパが紛れ込んでいたことは、国家の統治機能や組織の浄化が未だに致命的なレベルで不十分であることを白日の下に晒した。

国際社会は、この事態をシリア国内の局地的な治安問題として過小評価してはならず、IS対策の重要性を今一度、最優先課題として再認識すべきである。

シリア政権の脆弱性と治安組織への「静かなる浸透」

なぜなら、シリアにおけるISの活動活発化は、アフリカのサヘル地域やアフガニスタンの「イスラム国ホラサン州(ISKP)」といった他の地域で展開される勢力拡大とは、その戦略的・象徴的な意味合いが根本的に異なるからだ。

ISのグローバルネットワークという視座に立てば、今日においても概念上の「中枢(コア)」は依然としてシリアとイラクの境界地域に存在する。

かつて「カリフ制国家」の樹立を宣言し、世界中から数万人規模の外国人戦闘員を引き寄せた場所こそがこの地であり、支持者にとってシリアはISというブランドの「聖地」であり続けている。この地理的・歴史的な「重み」こそが、シリアを特別な場所にしているのである。

プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防総省、イランで数週間にわたる地上作戦を準備=

ワールド

日曜●アングル:トランプ氏製造業政策の「光と影」、

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story