コラム

外国人犯罪の解決には外国人が必要──日本人が知らない司法通訳の世界

2022年11月30日(水)20時50分
周 来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
警察署

KATARZYNA BIALASIEWICZ/ISTOCK

<外国人が犯罪を犯したときに登場するのが司法通訳。「税金の無駄遣い」とのたまう者もいれば、「警察の犬」と中傷する同胞もいるが、日本の役に立っている重要な仕事だ>

JR大塚駅近くの繁華街で10月末、ネパール人のグループと別の外国人グループによる乱闘事件があった。ネパール人2人がけがをし、外国人グループは逃亡。警察は傷害事件として捜査しているという。

おそらく、次は司法通訳の出番だ。といってもこの司法通訳、日本の皆さんにはなじみが薄いかもしれない。

司法通訳とは何か。

外国人の多くは、罪を犯したり容疑をかけられたりした場合、取り調べに対応できるだけの日本語力を持ち合わせていない。そこで司法通訳だ。

警察署、検察庁、裁判所はもちろん、弁護側にも需要があり、必要な言語の通訳を依頼する。民事裁判でも同様だ。

そんな司法通訳の現場で、最近特に需要が高いのがベトナム語である。2019年にはベトナム人による窃盗が国籍別摘発件数で最多となるなど、近年ベトナム人絡みの事件が多発。それに伴い、ベトナム語の通訳依頼が急増しているのだ。

私が経営する通訳・翻訳の派遣会社では、そのせいで最近ベトナム語通訳者がなかなかつかまらない。ベトナム語はいま最も人材不足の言語の1つと言えるだろう。

ちなみに、私も1995年頃から10年ほど司法通訳を務め、さまざまな在日中国人の犯罪「現場」に立ち会った。現在、日刊ゲンダイの連載でその時の貴重な経験を紹介しているが、大きな反響を頂いている。

取り調べが可視化(録音・録画)されるようになった今では考えられないが、当時は刑事が机をたたいて威嚇したり、たばこやヒマワリの種(中国人の好物だ)、缶コーヒーを渡したりと、アメとムチを使い分け容疑者を「完落ち」させる場面が少なくなかった。

その中で中立の立場に徹しつつ、「刑事がこう言っている」と三人称で伝えるのではなく、一人称でテンポよく訳し、容疑者の反応をうかがう。それが司法通訳の腕の見せどころだった。

当時、「外国人犯罪をスムーズに解決できるかどうかは司法通訳次第」と言われるほど重要な役割を担っていた。

私も日本の役に立っているのだという自負心と大きなやりがいを感じながら仕事に当たっていたが、約10年続けた末に、この世界から身を引いた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story