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Editor's Note

「ママさん飛行士」って言うな

2010年04月06日(火)21時08分


 日本のマスコミはなぜ、働く女性に「ママさん」をつけたがるのだろうか。

 スペースシャトルで国際宇宙ステーション(ISS)に飛び立った山崎直子さんのこと。男との体力差や体格差ゆえの困難はあるだろうが、それなら「女性宇宙飛行士」でいいのでは。母親であることをわざわざ強調する必要があるのだろうか。しかも「ママさん」などという妙な日本語で。

 人間味を出して視聴者や読者の興味をひこうという意図はわかる。ニューズウィークの記事でもそれは基本だ。けれど、程度問題だろう。テレビから流れてくるのは「ママさん」のテロップと、家族と一緒に微笑んでいる映像ばかり。危うく、何のニュースか忘れそうになった。

 紋切り型の表現は、もっと大事なことを考える機会も失わせる。シャトルは年内の退役が決まっている。前大統領のブッシュが立てたその後継計画は、リーマン・ショックに慌てふためいたオバマ政権によってお蔵入りに。アメリカが腰の引けた状況で、ISS計画にどう関わっていくのか。開発コストとの見合いをどう考えていくのか。日本の宇宙開発は岐路に立っている。

 紙の新聞はその辺もきちんと解説していた。が、アクセス数を稼ぎたいウェブサイトでは緊張感が緩むらしい。全国紙ともあろうものが、「「きれいなお姉さん」系から「きれいなママ」系宇宙飛行士に」などというコピーはないだろう。小ばかにしているとしか思えない。山崎さんも読者のことも。

 ママさん議員、ママさん弁護士、ママさん選手、ママさん社長、ママさん記者......。懸命に努力してキャリアと向き合う女性たちを、幼稚な響きで呼ぶのはそろそろやめにしたらどうか。ついでに「日本人が宇宙に行きました! ほら、スプーンが浮いてる! 無重力だからこんなすごいことができるんです!」的な、情けないはしゃぎ方も。


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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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