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「高齢者がクマと戦うしかない」日本のクマ被害とネパールの「意外な関連性」とは?

Demography and Bear Attacks

2026年1月28日(水)18時44分
ジェフ・チャイルズ (ワシントン大学セントルイス校教授〔社会文化人類学〕)
ヒマラヤヒグマ

アジアで増加するクマの人的被害の背景には、人口流出という問題が共通する(ヒマラヤヒグマ) ARTUSHーISTOCK/GETTY IMAGES PLUS

<高地の集落で増える襲撃事例と進まない対策。住民の体験談から浮かび上がるのは意外な原因──>

ネパール中部の高地にある仏教徒集落、ヌブリに住むドルジェ・ドゥンドゥル(71)は数カ月前、ツキノワグマに足をかまれた。被害に遭ったのは、この5年間で3度目だ。

最初にクマに襲われた時のことを、ドルジェはこう振り返る。「ある晩、帰宅した妻から、家の裏の畑のトウモロコシがクマに食い荒らされたと聞いた。クマを追い払うため、妻が夜の見張りの準備をしている間、畑を確かめに行った。クマはその場に座り込んでいて、攻撃してきた」


ドルジェは地面に伏せたが、シャツを破られ、肩を引き裂かれた。「叫び声を上げたら、クマは逃げた。妻は私がふざけているのかと思ったが、傷を見て何が起きたか悟った」

筆者が率いる調査チームがドルジェに話を聞いたのは、高齢化と移住に関する研究プロジェクトの一環だった。クマに襲われた70代男性と、ネパールの人口動態に何の関係があるのかと思うかもしれない。実は「大あり」なのだ。

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5年間で3回、クマに襲われたドルジェ GEOFF CHILDS, CC BY-SA

ネパール各地では近年、クマによる人身被害事例が増加し、報道や学術研究で取り上げられている。その最前線にいるのが、ヌブリの住民だ。主な理由の1つは人口流出にある。教育・雇用機会を求めて、特に若年層が村外へ移住し、今やヌブリで生まれた5~19歳の75%以上が別の場所で暮らしている。

その結果、村には高齢者のみの世帯が多く残る。ドルジェと妻ツェワンもそうだ。娘のうち2人は外国に、もう1人は首都カトマンズに住み、一人息子は別の村でトレッキングロッジを経営している。

以前は、トウモロコシが実る頃にはクマよけのため、畑へ派遣された若者たちが一晩中たき火をして鍋をたたくのが習慣だった。だが若年層がいなくなり、村から離れた畑が放棄されるなか、クマはより住宅に近い場所で食べ物をあさるようになっている。

人口動態と相関関係に

ヌブリのような村落の住民が移住するのは、教育・雇用機会の欠如が大きな原因だ。さらに、若年層流出が生み出す問題に拍車をかけているのが、医療や衛生状態の向上による寿命の延びと出生率の低下がもたらす村の高齢化だ。ヌブリの合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子の数)は2000年代前半には6以上だったが、今では3未満にとどまっている。

高齢化が絡む「クマ現象」が起きているのはネパールだけではない。アジア各地で、同様の力学が作用している。

ニューヨーク・タイムズ紙が昨年11月に報じたように、人口動態を一因とするクマ被害の増加は、日本でも発生している。日本では以前、農地などの里山が緩衝地帯として機能し、都市圏へのクマの侵入を防いでいた。だが過疎化によって、人口がより密集した地域にクマが接近するようになり、自然保護の取り組みと安全への懸念がぶつかり合う事態になっている。

そうした懸念は、ドルジェも身をもって知っている。23年の調査時には、肩から腕にかけて残る深い爪痕を見せ、もう夜間にクマを追い払うことはしないと語った。

自然保護という「障壁」

ネパールのトウモロコシ畑

渓谷に位置するヌブリのトウモロコシ畑はクマが食べ物をあさる場所になっている GEOFF CHILDS, CC BY-SA

昨年10月、ドルジェとツェワンはクマがうろつく前に収穫を行い、自宅の中庭にトウモロコシを保管した。中庭は石の壁で囲まれ、壁の上には薪を積み上げてある。万全の対策ではないが、クマよけにはなるはずだ。トウモロコシはビニールシートで覆い、念のためにドルジェがベランダで寝ることにした。

「シャラ、シャラという音で目が覚めた。クマがシートの下をあさっているに違いないと思った。私が行動を起こす前にクマが迫ってきて、大声を出したらおじけづいてうなり、寝ていたマットレスを引っかいた。それから突然足を引っ張られ痛みに襲われた」

足の裂傷は深かった。チベット伝統医学に習熟しているドルジェは、自分で止血した(皮肉なことに、使ったのはクマの肝を用いた薬液だ)が、感染症になれば命を落とす危険がある。さらに手当てを受けるため、チャーターしたヘリでカトマンズへ行く必要があったが、ヘリが来るまで3日間待たされ、現地の基準では法外な金額の費用(約2000ドル相当)がかかった。

別の村では、高齢女性が夜間に屋外トイレへ行く際にクマに襲われている。女性は顔に重傷を負い、息子が資金をかき集めて治療に送り出した。

増えるクマ被害に、現場はどう対応すればいいのか。

かつて、クマによる危害が大きくなりすぎた場合は罠を仕掛けたと、ドルジェは言う。しかし、その選択肢は1990年代に消え去った。政府主導の下、一帯の天然資源管理を目的とするマナスル保護区プロジェクト(MCAP)が発足し、野生生物の殺害が禁止されたためだ。

規制が一時的に緩和されれば、より敵対的なクマを退治できると、ドルジェは話す。だが、MCAP当局者はこうした意見に耳を傾けない。その一方、クマ対策として認められているソーラー電気柵などには効果がないという。

若者が去り、高齢者がクマと戦うしかないなか、残された選択肢についてドルジェは内省的な見方をしている。

「最初はクマを殺すべきだと思った。だが心のどこかでは、前世での悪い行いのせいでクマに襲われたのではないかと感じる。クマが来たのは私を襲うためではない。クマを殺せば、また罪深い行いをすることになり、新たなカルマ(業)を生み出すだろう。ならば、怒っても意味がない」

命と生活に関わるクマの脅威の拡大に、ヌブリの住民がどう対応するかは未知数だ。だが、確かなことが1つある。若年層の流出のせいで、村に残された人々はより差し迫った危機に直面し、解決はより難しくなっている。


The Conversation

Geoff Childs, Professor of Sociocultural Anthropology, Washington University in St. Louis

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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