最新記事
韓国

韓国・李在明、国民の声に耳塞ぐ? 「執務室100m内集会禁止」の波紋

2025年12月16日(火)19時53分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

青瓦台復帰と「規制強化」

こうしたなか、現在、李在明(イ・ジェミョン)政権は、尹政権期に移転した大統領執務室機能を龍山から青瓦台へ戻す作業を進めている。大統領秘書室長の姜勲植(カン・フンシク)は、業務施設の移転がクリスマス前後に完了する見通しだと説明し、記者団が利用するブリーフィングルームも12月20〜23日に青瓦台・春秋館へ移すと述べたと報じられた。

一方で、大統領の「官邸(住まい)」の移転は、警備などの問題から来年上半期になる見込みだという。 政府は就任直後の国務会議で、青瓦台復帰に向けた予備費259億ウォンの支出を議決したとも伝えられている。

この"青瓦台復帰"が、集示法改正と結びつくとどうなるか。報道では、改正案が成立した場合、青瓦台前の噴水台広場なども「100メートル規制」に飲み込まれる可能性があると指摘される。つまり、場所が龍山から青瓦台へ戻った瞬間、抗議の舞台もまた青瓦台周辺へ移り得る――その「未来の光景」を先回りして塞ぐのが、改正案だと受け取られている。

そして再び「集示法改正」へ

今回問題になっている改正案の核心は、現行法が「大統領官邸」「国会議長公館」などに設けている"100メートル以内の集会禁止"の枠に、「大統領執務室」も追加する点だ。例外として「職務を妨げるおそれがない」「大規模な集会に拡散するおそれがない」場合は許容する、といった但し書きもあるが、現場で判断するのは結局、規制する警察になりやすい――という懸念が出ている。

国民日報は、法案が通れば青瓦台近隣の集会が原則禁止となり、学界などから「違憲の恐れ」が出ていると報じた。また反発が広がった結果、12月9日の国会本会議には上程されなかったとも伝えている。

つまり、いったんは踏みとどまった形だが、法案が棚上げされたわけではなく、再浮上する余地が残る。

李在明大統領の考えは?

では、李在明大統領自身はこの改正案をどう捉えているのか。少なくとも李大統領が改正案への賛否を明確に語ってはいない。それだけに、法案反対派は「この改正は、 "国民主権政府"を標榜する李在明政権の国政理念とも合致しない」と突きつける。PSPDはまさにその言葉で、法案を「集会の自由」を侵す"改悪"だと位置づけ、与党が一枚岩で突き進むことへの警戒感をあらわにした。

一方、与党側から見れば、執務の安全確保や警備負担、周辺住民の生活被害といった論点を掲げやすい。だが、その論理が"民主主義の騒音"まで消してしまうのかどうか。龍山で積み重なった司法判断や、100メートル規制をめぐる憲法判断との整合性を、立法府がどう説明するのかが問われている。

「戻る執務室」と「狭まる広場」

大統領執務室が青瓦台へ戻れば、政治の象徴空間もまた青瓦台へ戻る。だからこそ、その目の前から市民の声を遠ざける法改正が、いま強い反発を呼ぶ。この改正案が国会本会議でどう扱われるのか。あるいは、青瓦台復帰の"完了"と同時に、青瓦台前の広場が「実質的な許可制」へ変質していくのか。韓国政治が次に突き当たる争点は、外交でも経済でもなく――「権力のすぐ前で、声を上げられるか」という、ごく根源的な問いかもしれない。

【関連記事】
「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情報流出 ── 中国闇マーケットで大量販売
【写真】世界で最も稼いだK-POPスター第1位は? トップはBTSでもBLACKPINKでもなく...
【動画】体重は53キロなのに「太り過ぎ」で追放されたと暴露するK-POPアイドル

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中