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理念なき「停戦案」が招く危機...トランプ流調停の限界

EXHAUSTED RUSSIA AND UKRAINE

2025年12月8日(月)17時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)
和平協議が続くなかでもウクライナへの攻撃は続く EVGEN KOTENKOーUKRINFORMーNURPHOTOーREUTERS

和平協議が続くなかでもウクライナへの攻撃は続く EVGEN KOTENKOーUKRINFORMーNURPHOTOーREUTERS

<ロシア軍は軍事・経済ともに疲弊し、ウクライナも徴募や財政難で追い詰められる中、膠着は深まるばかりだ。暴力を追認するだけの調停ではなく、武力による国境変更を認めないという「ヘルシンキ宣言」のような理念が必要ではないか>


▼目次
トランプの仲介には理念がない

「トランプ米大統領によるウクライナ戦争調停」の努力が続く。モスクワ、ジュネーブ、アブダビなどで米ロの代表は接触を繰り返す。でも、基本はこれまでと同じこと。アメリカはロシア軍が占領したところで打ち止め、そこを新たな境界とする案を提示。ウクライナは、それでは何のために戦ってきたのか分からないと抵抗。NATOと欧州諸国はウクライナの肩を持つが、力不足。そして戦線は膠着していて、ロシアはもう4カ月間、ウクライナ東部の小さな町ポクロフスクを落とせずにいる。

パレスチナ自治区ガザでのトランプの調停は今のところ功を奏しているが、イスラエル軍がガザをほぼ制圧したのを後追いしているだけのこと。ウクライナではまだそうなっていないのだ。

西側メディアは根拠もなしにロシアの優勢を伝えるが、ロシアは実は経済、兵力ともよれよれだ。緒戦から、アメリカ製の携帯ミサイル「ジャベリン」などで戦車数千両を破壊されたロシア軍は今、オートバイや中古車の屋根に乗って移動する。ロシアの青年は動員すると国外に逃げてしまうので、兵士は貧困層からカネで集め、囚人たちも「動員」する始末。最近のロシアの攻勢はミサイルやドローンなど「飛び道具」に依存していて、これでは占領地は拡大できない。

銃後のロシア経済は、国防予算の大盤振る舞いで賃金が上昇し、かりそめの繁栄を謳歌してきたが、これで起きたインフレを静めるための利上げで経済は冷えすぎ、成長率はゼロに近づいた。さらに原油価格の低下と西側の制裁強化で政府歳入は減少し、今年5兆7000億ルーブルの赤字を見込む。政府は消費税、そして個人業・中小企業への増税を準備し始めている。

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