歴史が警告する関税の罠──トランプ政策が招く「世界恐慌」の再来

A LESSON IN HISTORY

2025年5月22日(木)16時55分
スコット・レイノルズ・ネルソン(米ジョージア大学歴史学部教授)

港で出荷を待つ輸出用綿花

港で出荷を待つ輸出用綿花(19世紀の木版画) ANN RONAN PICTURESーPRINT COLLECTOR/GETTY IMAGES

市場をゆがめた植民地政策

アメリカの最初の恐慌は1816年に始まった。前年にナポレオン戦争に勝利したイギリスは、軍用衣料用に契約していた毛織物を大量に投げ売りした。イギリスにとって初めての軍放出品セールだった。

アメリカの商人や毛織物業者は安価な毛織物が押し寄せたことに反発。17年3月、イギリス船の入港と安価なイギリス製品の輸入を制限する航海条例が連邦議会で可決された。


イギリスは報復として5月に枢密院令を発し、アメリカ船がカリブ海のイギリス植民地に穀物を輸送することを実質的に禁止した。

これによりアメリカの農家は、1世紀以上にわたり独占していたカリブ海市場を失った。18年12月にはアメリカの小麦価格は50%下落し、多くの農民が米土地管理局にローンを返済できなくなった。農民は地元の商店への借金も返せず、地元の商店は都市部の業者への支払いが滞った。

こうして1819年の恐慌が始まり、貿易制限は市場をゆがめ続けた。やがて、ニューヨーク州は五大湖経由でカナダに小麦を密輸し、トロントとモントリオールの製粉業者が保税扱い(イギリスの関税が免除される)の小麦粉としてカリブ海市場に売るという抜け道を切り開いた。

一方、バージニア州、ジョージア州、サウスカロライナ州は小麦や米の生産から、奴隷制に依存した綿花生産に転換して繁栄した。

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