最新記事
韓国

ユン大統領罷免を言い渡した憲法裁裁判官は「平均的国民から抜け出さない」と誓い司法人生を終えた

2025年4月18日(金)20時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

奨学金は社会に返す

ムン・ヒョンベ憲法裁判官の謙虚な人生哲学の背景には、実業家で篤志家のキム・ジャンハ氏(81)の存在がある。貧しい家庭出身のキム・ジャンハ氏は中学校卒業後、漢方薬局の店員として働きながら19歳で漢方薬剤師試験に合格。1963年に自身の漢方薬局を開業し成功を収めた後、1984年に100億ウォン超の私財を投じて慶尚南道晋州市(キョンサンナムドチンジュし)に明新高等学校晋州(チンジュ)を設立し、1991年には国家に寄贈した。

このキム・ジャンハ氏の奨学金を受けた「キム・ジャンハ奨学生」の一人がムン代行だった。彼は高校・大学時代に奨学金を受けており、1986年司法試験合格後、感謝の挨拶をしに行くと、「私に感謝する必要はない。返すつもりなら社会に返せ」と言われたという。2019年の人事聴聞会で、ムン代行は「その言葉の実践を唯一の物差しで生きてきた。裁判官の道を歩きながら憲法の崇高な意志が私たちの社会で正しく貫徹されることに全力を尽くした」と述べた。

自殺未遂の男に「自殺という単語を10回述べよ」と......

慶尚南道昌原(キョンサンナムドチャンウォン)地方裁判所部長判事在職時代(2004年2月~2007年2月)、ムン代行は腐敗・不正事件と控訴事件などを主に扱う第3刑事部裁判長を務めた。社会的弱者に深い関心を示した彼の判決は、厳正でありながらも人間味あふれるものだった。

特に印象的なのは、人生を悲観して自殺を図ろうとした30代男性への対応だ。ムン権限代行は「『自殺』という単語を10回言葉にしてみなさい」と命じ、男性が言葉を繰り返した後、「被告人が詠んだ『自殺』が私たちには『生きよう』に聞こえる。死ななければならない理由を生きなければならない理由として改めて考えてみなさい」と諭し、中国のエッセイ集「生きている間に必ずしなければならない49種類」をプレゼントした。また、裁判の途中で幼い時に別れた生母に会った20代には「愛せよ、一度も傷ついていないように」という本を贈ったこともある。

一方で、公職腐敗・不正と選挙違反に対しては厳正な判決を下し、特に2006年の地方選挙では「事案が重いものには懲役刑を、金品の絡んだ選挙は些細なことでも当選無効に該当する罰金100万ウォン以上を宣告する」という原則を貫いた。同年、昌原地方裁判所が賄賂など腐敗・不正に対する量刑基準を強化した際も、ムン代行がその中心にいた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏のミサイル防衛システムへの関与で調査要請=

ビジネス

丸紅、自社株買いを拡大 上限700億円・期間は26

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中