最新記事
荒川河畔の「原住民」(23)

7回繰り返した自殺未遂について、このホームレス男性は穏やかな顔で語った

2025年3月5日(水)16時15分
文・写真:趙海成

他の2回は、いずれも薬の量が足りず失敗した。彼が飲む睡眠薬は、ゴミの中から拾ったもので、多くても100粒、少ないときで20粒くらいだった。

住民が捨てるゴミの中には、賞味期限切れの食品やタバコ、酒、飲み物といった物だけではない。少々不気味なことに、睡眠薬という簡単には処方されない薬も混ざっている場合がある。

ゴミの中から「宝探し」することは、容易ではない。ゴミ袋を一つ一つ開けなければならず、手間がかかる。住民の反感や不満を買うことにもなる。多くのホームレスはそんなことをする勇気もないし、したくもないのだ。

しかし、「天は人の道を絶たず」(中国語では「天无絶人之路」と表す)。たまに、賢いカラスが助けに来てくれるという。食べ物を探すために、尖ったくちばしでビニール袋ごとくわえると、袋が破れて薬品や食品などが現れる。

征一郎さんが飲んだ睡眠薬は、ほとんどこのようにして手に入れたという。

睡眠薬を何度飲んでも死ねなかった征一郎さんは、それらがすべて有効期限切れの薬だったか、死ぬことができないような処方になっていたのか、どちらかだろうと思っている。

生きることに絶望し、餓死や殺虫剤でも自殺を図った

十日間、何も食べずに命を落とそうと企んだこともある。

食べ物は我慢できたが、水を飲まないことには耐えられなかった。ましてや、彼が寝ている公園のベンチのそばには蛇口があった。このような誘惑の多い餓死の方法は、失敗しないほうがおかしいだろう。

最後に自殺未遂をしたのは、3年前だという。

嵐が来て、征一郎さんのテントをバラバラに吹き飛ばしてしまった。夜中に寝ることができなかったのに加え、飢えと寒さに耐えきれず心身ともに疲れ果てた征一郎さんは、生きることに絶望した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪中銀、コアインフレ率は26年後半まで目標上回ると

ワールド

アングル:中国は自由貿易の「守護者」か、トランプ氏

ワールド

豪中銀、予想通り政策金利据え置き 追加緩和に慎重

ワールド

中国副首相、香港と本土の金融関係強化に期待
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中