最新記事
中東

「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理

ARABIAN MIGHT

2024年6月21日(金)14時33分
トム・オコナー(本誌中東担当)

「ほかの主要国との関係構築において、この路線はムハンマドが王位に就いても変わらない」と、ハミスは言う。「こうした関係には戦略的・経済的メリットがあるからだ」

アメリカがサウジアラビアの「スイング・ステート」的立場を受け入れることが関係安定化・強化のカギだと、サウジアラビアの地政学アナリスト、モハメド・アルハメドは指摘する。

「アメリカ、特に民主党・バイデン政権が、安全保障面でアメリカの重要な同盟国であるサウジアラビアとの関係を危険視しようとしたために生じたダメージを修復し、地域の力の均衡を実現する絶好のチャンスだ」と、アルハメドは本誌に語った。

「サウジアラビアを危険視しようとする試みは常に失敗する。サウジアラビアでは目下、経済・文化・科学・政治が大きく発展し、穏健化するアラブ・中東・イスラム教世界に対するリーダーシップも非常に成熟しているからだ」

アルハメドによれば、現状打破が非常に重要になる。中東がガザの戦争で不安定になっている今、サウジアラビア政府が本格的変化をもたらすかもしれないからだ。「アメリカは交渉の際、経済的・地政学的に重要なサウジアラビアの利害を考慮せざるを得ない。

サウジアラビアの戦略的重要性を思えば、政権のイデオロギー的アジェンダだけでなく、サウジアラビアと強固な関係を維持することのより広いメリットも考慮する必要があるだろう」

アメリカが中東で影響力を維持するには「地域の安定、テロ対策、安全保障面での取り組み、エネルギー安全保障など共通の利益での協力も不可欠だ」と、アルハメドは言う。

駐米サウジアラビア大使館のファハド・ナゼル報道官は本誌の取材に対し、「サウジアラビアは世界の圧倒的多数の国々と良好な関係にあり、グローバルノースとグローバルサウス、東側と西側の懸け橋になれるはずだ」と語った。

「サウジアラビアが『ビジョン2030』における経済的利害に基づいてさまざまな国と関係を深めるのは当然だが、アメリカとの関係は先端技術やサプライチェーンの回復力や宇宙探査にまで広がっている。『ビジョン2030』の目標の多くが達成済みで上方修正されている」

「私たちはわが国の若者や女性や起業家に力を与え、行政サービスの提供方法に革命も起こした」と、ナゼルは言う。「これらの措置は経済を多様化し、雇用を創出し、人々の生活の質を向上させてきた。『ビジョン2030』などの計画は国民の幅広い支持を得ている」

この点について、米国務省は何と答えるのだろうか?

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、停戦合意に基づきカンボジア兵18人を解放

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ビジネス

中国製造業PMI、12月は9カ月ぶり節目回復 非製
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中