最新記事
ウクライナ戦争

欧米が抱える弾薬生産の課題とウクライナ支援の行方...足りない砲弾、兵力補充

Can Ukraine Hold?

2024年5月8日(水)14時10分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)
ウクライナの兵士がドネツク地方のロシア軍に向けて榴弾砲を発射(2024年5月) REUTERS/Valentyn Ogirenko

ウクライナの兵士がドネツク地方のロシア軍に向けて榴弾砲を発射(2024年5月) REUTERS/Valentyn Ogirenko

<米議会で軍事支援が決まったが圧倒的に砲弾が足りない。防衛戦を強いられ、兵力補充が追い付かない恐れも>

米議会は4月23日、数カ月に及んだ論争を経て、ウクライナへの約608億ドル規模の軍事支援を含む緊急予算案を可決した。しかし、欧米各国はNATO標準弾を増産しているが自国の武器庫も補充しなければならず、ウクライナは今年の大半を通じて弾薬数でロシアに圧倒される可能性が高いと、当局者やアナリストはみている。

ウクライナ軍の砲弾発射数はここ数カ月で1日2000発を下回っているとされ、ロシア軍に対する防衛戦を辛うじて維持している状態だ。

「問題は、世界中で砲弾の不足が深刻なことだ」と、ウクライナのオレクサンドラ・ウスチノワ議員は言う。「ヨーロッパは100万発を提供すると言ったが、実際に提供されたのはその30%にすぎない。アメリカは弾薬の備蓄が尽きつつあり、さらにはイスラエルにも供給している」

緊急予算案の成立により、バイデン米政権は米軍の即応態勢を損なうことなく、ウクライナに砲弾を送る余裕が生まれるだろう。米国防総省は予算案の成立直後に、大砲、ロケット弾、大量の車両を含む総額10億ドルの軍事支援を発表した。

ただし、アメリカは今年の大半をかけて、まずは自国の備蓄をウクライナ開戦前のレベルに回復させるだろう。米陸軍は来年末までに現在の3倍を超える月10万発の砲弾の増産を目指している。

大西洋を隔てたヨーロッパの備蓄は空っぽだ。EUは今年3月までに100万発の砲弾をウクライナに届けるという目標を掲げていたが、実際に供給したのは約半分で、年末までに年産140万発の態勢になる見通しだとしている。

ウクライナを支援するヨーロッパ諸国はウクライナ軍の砲身を冷やさないように砲弾をかき集めようとしており、EU域外からの調達を模索している。

チェコはNATO標準の155ミリ砲弾50万発などを欧米以外から調達できるとして、各国に購入資金の拠出を求めた。約20カ国がこれに応じ、チェコは最初の砲弾をウクライナに届けるプロセスに入ったようだ。エストニアも同様に、砲弾やロケット弾の調達のめどがついたとして、各国に資金の拠出を募る意向を示している。

攻撃を行う余裕はない

古い砲弾を修理調整すれば新品を購入するより約30%安くなると、ヨーロッパの当局者は語る。ただし、古い砲弾は旧ソ連衛星国から調達する分が多く、彼らは決してロシアの機嫌を損ねたくない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

政府・日銀の協定見直し、直ちに必要とは考えず=高市

ワールド

停戦に双方署名とハマス、イスラエル閣議承認へ 12

ビジネス

再送-インタビュー:サナエノミクス、日銀利上げ「遠

ビジネス

米ペプシコ、第3四半期売上高・利益が予想上回る 健
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ「過激派」から「精鋭」へと変わったのか?
  • 3
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略
  • 4
    ヒゲワシの巣で「貴重なお宝」を次々発見...700年前…
  • 5
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 6
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 7
    インフレで4割が「貯蓄ゼロ」、ゴールドマン・サック…
  • 8
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 9
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 10
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中