最新記事
フランス

五輪目前のパリ、貧困地域で「浄化作戦」本格化──逮捕者続出で、拘置所は定員の2倍のパンク状態に

2024年5月4日(土)20時08分
ロイター

<「その場しのぎ」>

セーヌサンドニ県では多くの五輪イベントが行われる。セーヌサンドニはフランスの中で移民比率が最も高く、また最も貧しい県だ。

同県の教師たちは、この地域の学校への予算配分が不十分だとして2月以来ストライキに入っている。県内では、ホームレスや旅行者によるキャンプや不法占拠が見られる。

地区によっては、無許可の露天商が街路に列をなすところもある。

セーヌサンドニ県イルサンドニ市のモハメド・グナバリ市長は、投資不足のため何年も遅れていたインフラや住宅の整備が五輪のおかげで進んだ、と語る。

だが、フランスの法律・矯正施設を調査するCESDIPに所属する社会学者のオリビエ・カーン氏は、警察による取り締まりと厳しい刑罰への依存は、貧困層、移民、ホームレスに不当に大きな影響を与えている、と指摘する。

「万事がその場しのぎだ」とカーン氏は言う。

マテ検察官によれば、この地域における麻薬取引や無許可の販売といった路上犯罪をターゲットとして昨年開始された「ゼロ・トレランス(非寛容)」の取り締まりによって、刑務所の収容者数はさらに増加しているという。

セーヌサンドニ警察の地域治安担当責任者ミシェル・ラボー氏は先週の記者会見で、3月と4月には警察官を4000人増員したと述べ、この取り締まりは「クリーンアップ」であり、地元住民と「観光客、観客、選手の家族」のために安全を提供する作戦だと語った。

「これは始まりにすぎない。(五輪に向けて)さらに強度を上げていく予定だ」とラボー氏は語った。

ロイターが取材した法律専門家7人は、この取り締まりに批判的だ。

ボビニーの法廷弁護士ファド・クニア氏は、無許可の路上販売などの法律違反に重い刑罰を科すことは過剰であり、ただでさえ脆弱な立場にある人々をさらに追い詰めることになる、と言う。

<パンク寸前の施設>

欧州理事会のデータによれば、フランスの刑務所・拘置所の過密度はルーマニアとキプロスに次いで欧州第3位。また2022年には欧州内でスロベニアに次ぐペースで刑務所・拘置所の人口が増加した。

司法省のデータからは、フランスの施設が史上最も過密な状態にあることが分かる。

五輪開催中に予想される訴訟件数に対応すべく、ボビニーの裁判所では迅速審理を拡大する準備を進めている。だが国際刑務所監視局(OIP)は、迅速審理では通常の裁判に比べて実刑判決に至る可能性が8倍高くなると指摘している。

OIPの研究者であるヨハン・ビール氏は、司法省のデータでは迅速審理手続きの活用が近年徐々に増加しており、施設の過密状態に拍車を掛けている、と語る。

元受刑者の支援に当たる慈善団体「エメルジャンス93」は、過密状態のために刑務所内での活動や支援を利用しにくくなっており、そのことが社会復帰への妨げになっている、と指摘する。

さらに困ったことに、エメルジャンス93がセーヌサンドニ県で運営し元受刑者を雇用している2カ所の洗車場が五輪期間中の閉鎖を迫られているという。1カ所は五輪期間中に閉鎖されるショッピングモールの駐車場内、もう1カ所は日本選手団に提供される施設内にあるという。

エメルジャンス93でソーシャルワーカーとして働くマニュエル・シャジュモウィーズ氏は、同団体は五輪組織委に対し、選手や役員に提供される500台の車両の洗車を元受刑者に任せてくれるよう申し入れたが、まだ回答がないという。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、米大統領の空爆停止要請受け入れ 次回3者協

ビジネス

米エクソン、第4四半期利益は予想上回る 生産コスト

ビジネス

シェブロン、第4四半期利益が予想上回る ベネズエラ

ビジネス

スイスフラン操作には一切関与せず、中銀表明 米為替
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 7
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 8
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 9
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中