最新記事
中東

「ラファ侵攻」を巡りアメリカとイスラエルの対立が激化、ネタニヤフが同盟国より優先するものとは?

Politics Over Peace

2024年4月2日(火)19時13分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
バイデンに喧嘩を売るネタニヤフの頭の中

昨年10月18日、イスラエルを訪れたバイデン(左)はネタニヤフに支援を約束したが GPOーANADOLU/GETTY IMAGES

<ガザの「即時停戦」を求める安保理決議に同盟国アメリカは拒否権を行使せず、棄権。悪化するアメリカとイスラエルの関係には、実はもう一つの劇的出来事があった>

アメリカとイスラエルの関係は史上最低の水準に冷え込んでいる。主な理由は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がパレスチナ自治区ガザでの戦争に対する強硬な姿勢を一歩たりとも、レトリック上でさえ、変えようとしないことだ。

そして、その理由はネタニヤフが国内で一握りの極右政治家に依存しているため。彼らの支持を失えば政権は崩壊するだろう。選挙になればネタニヤフが率いるリクード党はほぼ間違いなく敗北し、過去28年のうち通算17年にわたって就いてきた首相の座から追われることになる。

要するに、ネタニヤフはイスラエルにとって最も重要な同盟国との健全な関係よりも、国際社会におけるイスラエルの評判よりも、自身の政治生命を優先しているのだ。


しかし3月25日、2つの劇的な出来事が、なんと同じ日に起きた。

1つ目は、国連安全保障理事会でガザの「即時停戦」を求める決議案に、アメリカが拒否権を行使せずに棄権したことだ。

アメリカがイスラエルを批判する決議案に拒否権を行使してイスラエルを守るという常套手段を使わなかったのは、今回が初めてではない。

リチャード・ニクソンからバラク・オバマまで全ての大統領が少なくとも1回は(ロナルド・レーガンは7回も)、入植地の拡大やレバノン侵攻、パレスチナ人殺害の容認などの犯罪や不正行為について、イスラエルを非難する決議で棄権している。

それでもジョー・バイデン米大統領がここ数カ月で3回、同様の決議案に拒否権の行使を指示したことを考えれば、今回の棄権は異例だった。

2つ目の出来事は、アメリカが拒否権を行使しなかったことに反発して、ネタニヤフが政府代表団の訪米を中止したことだ(米政府高官は27日に、イスラエル側と日程の再調整を行うと表明した)。

ネタニヤフは5人の上級顧問をワシントンに派遣して、ガザ南部のラファにとどまっているハマスの指導部を、大規模な地上攻撃を行わずに根絶やしにする方法を話し合う予定だった。

ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官はイスラエルに、ハマス殲滅という戦略目標を実現するための、より破壊的ではない方法を議論するように呼びかけていた。

つまり、ネタニヤフはアメリカの同盟国がほとんどやったことのない方法で、大統領と国家安全保障担当補佐官のメンツをつぶしたのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中