最新記事
中国

長期衰退に入った中国、習近平は進むも退くも地獄

Xi’s Dilemma

2024年3月12日(火)14時28分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

習近平が大転換をためらうワケ

もっとも、そんな習を信じる者はほとんどいない。少しでも実効性を示すには、数々の悪政を放棄せざるを得ない。外国企業の従業員をスパイ容疑で恣意的に投獄すること、フィリピンや台湾をいじめること、南シナ海で進める実効支配――。

しかし、そこまで引き下がることもできず、従って西側からの助け舟は期待できないだろう。米中首脳会談から手ぶらで帰国した習は、3中全会で有効な政策を示せないことを分かっており、開催日程さえ発表しないままだ。

歴史を振り返れば、共産主義の独裁者が政策を大転換したこともあった。レーニンは1921年に破滅的な戦時共産主義から資本主義寄りの新経済政策に転換した。毛沢東は58~62年に大飢饉を引き起こした大躍進政策と人民公社化の大失敗を悟り、イデオロギーを後退させて譲歩した。

彼らが急激な方針転換をしても無傷でいられたのは、共産主義共和国の創設者として、過ちに費やせる十分な政治資本を持っていたからだ。

しかし習は、平凡な実績の小君子が妥協の産物として指導者になったにすぎない。西側と良好な関係を維持して経済を繫栄させた前任者たちの威を借りて、習には国を発展させる魔法の力があると信じている人々に、美辞麗句を並べて「チャイニーズドリーム」を売り込んできた。

習の政策面の無能さと失敗は今や明白だが、手を緩めすぎれば弱さの表れと見なされ、冷酷な敵対勢力か裏切者に追い落とされるかもしれない。

今後は野心を縮小させ、権力を掌握できる範囲で小さな政策的譲歩を行いながら、強硬な戦術で国民や党内の反発を抑えつつ、長期的な衰退から抜け出せないなりに国を運営していくことになるだろう。

これは、何よりも安定を求める多くの中国人にとって、社会の高齢化と保守化が進むなかで好ましい方向かもしれない。そして、西側を葬り去ることを諦めるつもりがない中国をなだめ、調和を探り、国を強くする手助けさえするという数十年間の愚行を断ち、正常な状態に戻ろうとしている西側諸国にとっても好ましいのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産の今期営業益予想5.5%増、為替変動や生産性改

ワールド

プーチン氏「戦略部隊は常に戦闘準備態勢」、対独戦勝

ワールド

マレーシア中銀、金利据え置き インフレリスクや通貨

ワールド

中国軍艦、カンボジアなど寄港へ 米国は警戒強める可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中