最新記事
一夫多妻制

インドで一夫多妻制が違法に、ムスリム女性内でも賛否

2024年2月19日(月)11時30分

シャヤラ・バノさん(49)は2月7日、安堵(あんど)のため息をついた。バノさんの住むインドの小さな州で一夫多妻制を禁止する法律が制定され、自身が最高裁判所で起こした訴訟を含め、何年間にもわたる努力が報われたためだ。写真は集団結婚式に臨むムスリム女性。1月、ムンバイで撮影(2024年 ロイター/Francis Mascarenhas)

シャヤラ・バノさん(49)は2月7日、安堵(あんど)のため息をついた。バノさんの住むインドの小さな州で一夫多妻制を禁止する法律が制定され、自身が最高裁判所で起こした訴訟を含め、何年間にもわたる努力が報われたためだ。

「これで、結婚や離婚に関する古くからのイスラム法(シャリア)を巡る闘いに勝ったと言うことができる」

 

2人の女性との結婚を選んだ夫はイスラム法に則り、アラビア語で離婚を意味する「タラーク」(talaq)と3回唱えただけで、バノさんとの「即時離婚」を成立させたという。

「男性が同時に2人以上と結婚することを認めるイスラム教の婚姻制度は、終わらせなければならなかった」。バノさんはそうロイターに語った。

他方、一夫多妻制や即時離婚などの慣習を廃止する新たな法律を喜ばしく思わない人もいる。その1人であるサダフ・ジャファーさんは、自分の同意を得ずに夫がほかの女性と結婚することを巡って法廷で争ってはいるものの、新法には懸念を示す。

子ども2人の養育費扶助を求めるジャファーさんは「イスラム教の一夫多妻制は厳格な規則や制約のもとで認められてはいるが、悪用されている」と言う。インドの司法による正当な裁きを願い、イスラム教の学者には相談しなかったと明かした。

同国北部ウッタラカンド州における「統一民法」の導入は、同国の宗教的少数者としては最も大きなグループであるイスラム教徒(ムスリム)の女性の間に亀裂をもたらしている。夫が複数の女性と結婚したことで人生が一変した女性らの間でさえも、そうした溝が生じているという。

新たな規定では、結婚や離婚、相続、養子縁組に関するイスラム法の決まりよりも、非宗教的な法律を重視すると定めており、活動家のバノさんらは称賛している。だがジャファーさんやムスリム政治家、イスラム教学者らにとっては、ヒンズー教至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)を率いるモディ首相の施策は歓迎できないものだという。

ウッタラカンド州でこの民法が採択されたことは、他州でも国内のイスラム教徒からの怒りや反対の声を押し切って同法の導入を進めていく上での布石になると見込まれている。インドには約2億人のイスラム教徒が暮らしており、これは世界で3番目に多い数だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バンガード、元ブラックロック幹部を新CEOに指名

ビジネス

香港の銀行、不動産不況による信用リスクに直面=ムー

ワールド

中国の複数都市が公共料金値上げ、デフレ圧力緩和も家

ワールド

インドネシア貿易黒字、4月は35.6億ドル 予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中