最新記事
能登半島地震

少子高齢化の「漆器の里」を襲った非情な災害――過酷すぎる輪島のリアルから見えるもの

HOME WITH DESPAIR

2024年1月26日(金)15時30分
小暮聡子(本誌記者)

SNOWMAN.jpg

崩れた道の前に置かれた門松。こんな正月を誰が予想しただろう KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN

今も市内全域で断水、また停電が続く場所もありライフラインの復旧が見通せないなか、この先のことについて考えられる段階ではない。だがいずれ「復興」という言葉が語られるようになるとき、長い未来に向けて中心となるのは若い世代だ。


しかし同時に、少子高齢化と過疎が進む輪島から、約100キロ離れた白山市へ中学生が集団避難することが連日のように報じられている。輪島市内の年少人口(0~14歳)は22年時点の推定で全体の7.2%。全国平均の11.6%と比べても少ない。

輪島高校に妻と義母と避難している7歳と4歳の子の父親(43)に話を聞くと、家族5人が2週間、一度も洗濯ができていない。平時でも小さな子供は感染症にかかりやすく衛生面への気配りが必要だ。洗濯物も多い。しかし断水のため洗濯ができず、七尾市の一部で水が出ていると聞いたので、コインランドリーに行こうと思っているという。

「夏場なら水をためてまだ何とかできますけど、冬は水も冷たい。今は家から持ち出せた服を着回して、汚れたやつは袋に入れておいて。2週間分をまとめて、車で1時間、2時間かけて洗濯しに行こうかと思ってます」と、この父親は語る。

彼はこの日、輪島高校の音楽室で子供のために遊び場を設ける支援活動があると聞き、7歳の長女を連れてやって来た。父親に話を聞く傍らでは、長女がボランティアスタッフと楽しそうに遊んでいる。

1月3日から能登に入り、輪島高校のほか珠洲市や七尾市、金沢市の避難所で子供の居場所をつくる活動を行っている東京都の認定NPO法人「カタリバ」のスタッフ、石井丈士(37)は、子供への支援は後回しになりがちだと指摘する。

「まず一番は人命救助、その次に食事とか衛生、と考えていると、子供と関わっていく人が減っていって、子供が子供らしくいられる時間はなくなっていってしまう」と、石井は言う。

「普段と違う生活、体育館や教室での生活が始まって、周りには知らない人がいたりと、気持ち的には安心できない。そんななかで、安心できる、ここは大丈夫なんだなと思える空間とか、気持ちを発散したり自由に遊べる空間がすごく大事です」

避難所の運営や医療については被災自治体と連携している他の自治体から職員が派遣されてくるが、子供のケアをする保育士はなかなか入ってこない。医療より優先度は下がったとしても、重要かつ必要なケアであるにもかかわらず、だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中