最新記事
台湾

敗者なき結果は民衆の「迷い」か「知恵」か、頼清徳(ライ・チントー)政権誕生の台湾新時代を読み解く

ROAD TO A NEW TAIWAN

2024年1月19日(金)17時17分
野嶋 剛(ジャーナリスト、大東文化大学教授)

「台湾解放」をレガシーとしたいと目される習にとっては屈辱以外の何物でもない。

そして今回も民進党の勝利を許してしまえば、平和統一は絶望的となり、残されるオプションは武力行使しかなくなる。

何より独裁化する習の「失敗」が確定してしまうのだ。

選挙期間中、中国メディアは野党の国民党と民衆党の連立に多大な期待を寄せる報道を展開した。

それも中国当局の「打倒民進党」の期待の表れだった。だが野党連立はならず、総統ポストはまたも「独立勢力」の手に落ちた。

それでも今回の結果は「立法院で民進党の牙城を崩せた」として、習の台湾政策は失敗していなかったと国内向けに強弁することも可能となった。

もちろん、「独立派」と有罪認定した民進党の天下が続くことは、世論対策的にも好ましくない。

台湾に対しては今後、軍事的威圧や経済制裁などの手段を講じてくるに違いない。

だが、大規模な軍事演習や、ましてや武力行使には至らないだろう。

対米関係の改善も途上にあり、国内経済の不振も目立つなか、中国も「次」に期待を寄せる総括を行うはずだ。

その意味では、中国も敗者ということはできない。

もちろん、アメリカをはじめとする自由主義諸国も、頼政権の舵取りに不安は抱きつつも、台湾の従来の現状維持路線と親自由主義諸国の外交を支持することに変わりはないのだから、当面は慌てる必要はない。

視界不良な多極化の時代へ

今回の選挙は、台湾の中でも外でも、何も得られなかったというプレーヤーはおらず、まさに「敗者なき戦場」だったのである。

曖昧な形となった選挙結果は、中国を抑制させながら台湾の主体性を守るための台湾の人々の「知恵」だとみることもできる。

一方で、米中のはざまでどちらに付くか、難題を突き付けられている台湾人の「迷い」も象徴している。

新型コロナの流行やウクライナ戦争の勃発と併せて「台湾有事」を不安視する声が世界にあふれ、台湾は米中対立の最前線に置かれることになった。

中国の脅威に対し、台湾の人々は片や兵役義務の延長を受け入れる現実感を持ちつつ、富裕層だけでなく中間層まで海外脱出のため日本や東南アジアに不動産を買っておこうという用心深さも持っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中